平清盛 第25話「見果てぬ夢」(6/24放送回)

今回は頼朝が上西門院統子内親王の蔵人として取り立てられるシーンから。今回はですね、この頼朝が清盛と顔を合わせるらしいのですよ。
なぜ、頼朝がこの大河のナレーションをしているのか?
なぜ、頼朝は清盛に敵意を抱いていないのか?
なぜ、頼朝は「平清盛がいなければ武士の世はなかった」などと言うのか?
それを考えると、初回顔合わせにドラマがあるんじゃないかと期待してしまいますよね。

義朝

頼朝の就職が決まって喜んでいる母の由良御前ですが、いよいよ病は篤いようです。源氏と言えばツンデレツンデレと言えば源氏のドラマですから、以下のようになりますね。清盛が宋の薬を差し入れようとする
→義朝「(信西と組んだ)お前の薬なんか受け取れるか!」
→由良御前、いよいよ重態に
→義朝、プライドなんかすっ飛んでしまって清盛から薬を貰いに行こうとする
→由良御前「平氏に頭を下げてはいけませぬ」
→義朝「たわけ! そなたの命に代えられるか」
義朝は強くあろうとするけど弱くて優しい、その二面性はさんざ描かれてきたとおりです。その義朝がさらにどん底へ落とされる展開で見ててつらい。でもその中で「いついかなるときも、源氏の御曹司として誇りをお持ちになり、生きてこられた殿を、由良は心よりお敬い申し上げておりまする」と由良御前が言ってくれたのは救いではあったのではないでしょうか。
まず「御曹司として」ですけど、棟梁になってからの付き合いじゃないんですよ、由良御前は。最初は「なーんだ源氏なの」とか言ってましたけど、その頃から苦楽……苦ばっかりな気も……を共にしているんです。
そして「お敬い申し上げておりまする」ですね。「お慕い申し上げておりまする」じゃない。ボロボロになってる義朝に「あなたは敬われるべき人なのです」とギリギリまで支えようとしているのです。泣けるなあ。
で、最期に由良御前は「たわけ! そなたの命に代えられるか」と言われてこう言うんですね。
「あれ……殿らしゅうもない……されど、嬉しや……。殿、どうか私を、どうか誇り高き源氏の妻として死なせてくださりませ……」
「……と、父が」
絶妙なんじゃないでしょうか。声のボリュームが。若い頃に父親の受け売りのふりしてツンデレしてたあれがここへ来たわけですけど、あまり気にならない程度の音量なのでぼけっと見てると気が付かない。私も最初見てる時気付かなかったんです。昔のツンデレ知らない人や忘れちゃった人は気づかないし、覚えてる人にとっては「あああれ!」ってなるのを狙ったのじゃないかなーと。
最期までらしさを失わなかった由良御前を看取った義朝。まあね、寂しいですしね。そりゃ常盤の所へ行きますよね。すると常盤には「自分を逃げ場にしないでくれ」と言われてしまう始末。義朝、どん底です。

その義朝の背中を押す……指嗾することになるのが藤原信頼(塚地)なのですが。

藤原信頼

近衛大将にしてくれ!」と後白河院にねだる信頼。
後白河「信西!」
信西「無能に近衛大将とか無理!」
後白河「アハハハハハそうだねそうだね信頼無能ちょうウケルー」
信頼「ひどい……」
後白河「ウシャシャゲラゲラあー笑った信西何とかせい!」
信西「」
何とかせいですよ。もっともだって言ってるのに自分の考えを枉げようという気がまったくない。

ここで信西が持ってきたのが唐の玄宗皇帝が楊貴妃に入れ込み過ぎて国をダメにし自分の身を滅ぼしたという話を詩にした「長恨歌」の絵巻。
後白河帝は絵巻が大好きで後白河院に話を聞いてもらうために絵巻にして献上する、みたいなことがあったという記録が残っていて、まさにこれがそうですね。絵巻というのは当時としては新しく開発されたばかりの表現方法なので、まあそうですね、今に例えると3D 映画かなんかみたいなもんなんですかねえ。

しかし!
よく考えると!
楊貴妃藤原信頼(塚地)を被らせた諫言だこれ!
とんでもない!

ちなみにこの諫言は後白河院には通じませんでした。ちゃんちゃん。

諫言が通らず遠ざけられなかった信頼は信西に馬鹿にされたので恨みを抱き、反信西となるようです。

さてこの信頼ですが、実際はわりと有能だった人のようです。東国に勢力を持ち義朝と連携し、厩別当という院の馬を統括する官職についていたので義朝と組めば動かせる軍馬の大部分を押さえることができる。で、清盛とは実は姻戚関係にありました。なのでまあ、うまいことクーデターに成功しちゃって清盛も味方に付くと思ってしまってもまあ仕方なかったしそういう布石は打ってたんですね。

信西

宋の僧に生身成仏と言われました! というお話をここで投入してきました。伝聞になってるのはなかなか渋い演出ですしそれを聞いた清盛が「すげえ!」と言わずに苦笑いしてたのは面白い。そして貧しい民に施しをしているシーンがあって合わせて巨大な死亡フラグになってます。
そして算木で何徹もして計算したみたいにボロボロになって「やった! 遣唐使復活行ける! 第三部完!」みたいなことを言ってこりゃもう死亡フラグが確固たるものになりました。もう逃れられぬ。清盛は「せわしないお方じゃ」と言うけど生き急いでますよねそれみたいな。でもなあ、「誰でもよいゆえ!」とか言ってる頃からの夢だもんなあ、宋。清盛もその辺はわかってて一緒に喜んであげます。んで信西は「次はそなたの番じゃ、熊野へ行け」と。清盛、「船を作り、水軍を集めるのじゃな」と返しますが、信西は何言ってんだバーローって感じで。「大願成就には、熊野詣じゃ」

なるほど、そうなるんですねえ。

清盛と頼朝と義朝

上西門院の殿上始の儀があったので、そこに清盛は出席しますし、統子に仕えているので頼朝は使用人的立場で出てきます。貴族もいっぱいいて色々言っています。期待の清盛と義朝の初顔合わせシーンです。
「なんと、もっとも上座に武士が……」
「まこと、平氏の勢いはすさまじい……」
「ほれ、あれが左馬頭義朝の……」
「おお、あの親殺しの……」
「落ちぶれた源氏の子が、平氏献杯とは……」
「見ものにございますな……」
これ、ナレ使わないで状況説明するのに便利だなー。
さて、頼朝はまだまだ子供ですし清盛がスーパーマンに見えても仕方ない。もしくは父があんなに意識しているし、自分も意識せざるを得ない。手元が狂って酒をこぼしてしまいました。「申し訳ござりませぬ!」とうろたえる頼朝。それに対して清盛が掛けた言葉は。
「やはり最も強き武士は平氏じゃ、そなたのような弱きものを抱えた源氏とは違う!」

睨む頼朝。得意げに微笑んでいる清盛。この台詞、清盛は準備してたんでしょうか。
そうです。3話で比べ馬をして、負けた清盛に義朝が言い放った台詞とその時の顔です。清盛-義朝のライバル関係は清盛-頼朝になっても続くよ! ということでしょうか。その時の話を義朝から聞いて。「父上が勝ったんですね」「それでようやく腑に落ちました」と嬉しそうにする頼朝。
当時は清盛が負けて己を見つめ直すきっかけとなったシーンだったのですが、ここでは頼朝が勝ったというシーンになりました。そう、自分は一度勝っている。話しながら義朝に精悍さが戻ってきたのです! 官位とか財力とか関係ない。武士と武士として戦うのなら自分の方が強かったんじゃないか!

由良の「誇り高き源氏の御曹司」「お敬いしております」という言葉。
常盤の「私を逃げ場にしないで欲しい」(そんなあなたは見たくない)という言葉。
頼朝の「父上が勝ったのですね」という言葉。
そして「最も強い武士は源氏だ」という以前の自分の言葉。
これで遂に義朝は立った! 自分を取り戻した!
最後の一押しのきっかけは清盛でした。
平清盛なくして源義朝なく、源義朝なくして平清盛はなかった」
頼朝のナレーションも大変な説得力を持っています。

ラストシーン

清盛がメインテーマをバックに熊野詣に出ていきました。「考えておったのじゃ。新しき、世のことを。新しき世を作るに欠かせぬ、二人のことを」と言う清盛。曲がシーンにマッチしてません。不自然です。このアンバランスは当然事態の急変を示していて……。
遂に清盛が思う新しき世を作るに欠かせぬ一人は、先走ってもう一人を攻撃してしまった!
これまで信西は散々算木を使用しているシーンを重ねてきたわけで、ここでも小道具をうまく利用してきました! 床に並べた算木が小さく揺れだし「地震か?」と思わせるもののそれはガダガタと大きく揺れだし次には屋敷が揺れて! こんなに長い地震はない……敵襲だ! うろたえる信西入道の運命やいかに! と次回へ引きました。

今回のラストはほんと最高ですね。「やばい! 信西入道逃げて!!」と咄嗟に思ってしまう、この演出。このために算木を使わせてきたのかー、と感心するしかないです。
そして繋がりましたね。清盛と頼朝が。何でナレーションに頼朝なのかまでのインパクトはないですが、それでも頼朝にとって清盛が強く印象付けられたなというところは間違いないだろうという展開でした。きっと次の機会、おそらく平治の乱の後、頼朝の処分が決まるシーンで決定的な何かがあるのでしょう。

どうしようもなく追い詰められて為義のようにしょげ返っていた義朝が遂に立つ! その過程をいくつもの過程を踏んで描写していきましたが、いやーとどめが(別に立ち直らせようと思ってやったわけではない)ライバルの清盛であり、息子の頼朝であり、昔の自分であるっていうのはほんと。うまい。これまでの積み重ねが見事に活きている。降参するしかない。ほんと面白いもの見れてるって気がしますね。否応なく次回に期待ですよ。