平清盛 23話「叔父を斬る」(6/10放送回)

直球タイトルが来ました。それだけ清盛にとって重要な回ってことですね。
清盛「死罪という罪はありませぬ」
そうなんです。ないんです。400年間ずっとなかった。死を穢れとして見る平安貴族としては死刑とかありえない。人を殺すとかは武士に任せて自分が殺すとかは思いもよらない*1
清盛「身内を斬れとは、非情に過ぎる! 元は、王家・摂関家の争いに駆り出され、命がけで戦うた武士が、なにゆえこの上、左様な苦しみを背負わねばならぬ!」
信西「それはそなたたちが武士であるゆえじゃ」
清盛「いつまで武士を犬扱いするおつもりか!」
信西「従わぬなら官位も領地も私財も召し上げるのみじゃ」
この方面は無理だ! と察した清盛は、色々と良くしてくれた藤原家成さんの息子、成親の屋敷へ。しかし成親は「私とて、散々にお諌めしたのです。されど……申し訳ござりませぬ。我が身の不甲斐なさ……お許し下さいませ」と泣くばかり。こっちも無理か、と清盛が引き上げるとケロッとした顔をしています。嘘泣きです。とんだ食わせ者です。今後の活躍が期待されます。
信西は義朝にも為義一党のの死罪を伝えます。義朝と言えばツンデレツンデレと言えば源氏ですから、もう親でも子でもないとか言ったのはありゃ全部ウソです。「官位返上するから許してくれ!」と清盛を優に越えるみっともなさで信西にすがりますが「清盛もおじさん斬るんだぜ。あいつはわかってるよな」とかすげなく断られるのでした。
こうなるともう義朝は八つ当たりです。為義捕縛の手配をした由良に DV!
「なにゆえ連れ戻したりした! お前が余計なことをしなければ、父上はご無事でお逃げになっていたかも知れんのだ!」本音いただきました! 今まで強がってたのよね……。
平氏屋敷では伊藤忠清(知力18)、教盛(知力32、マーク3)、経盛(マーク4)、時忠(平家にあらずんば人にあらずとかあとで言っちゃうチンピラ)らがおじさんをどうするか話し合っていますが家貞とか盛国とかデキる人がメンバーにいませんね。ということはどうしようもないってことです。「こっそり逃がそうぜ」→100%逃がしたとしか見られないし潰される。「信西入道に賄賂を」→あんにゃろがそんなので動くはずがない。「それより帝に直々に」→今回の戦後処理に限って信西が是、後白河帝が否とかありえねー。
結局清盛は忠正に下った処断を伝えます。で、従う気はないので何とかする……と言い切る前におじさんは「承知した。……いつ、斬られる?」と即答。
清盛は「叔父上!」と抗議しますが「わしが何より恐れておるのは、己が平氏の禍となることじゃ」と忠正は答えます。さんざ、清盛のことを「平氏の禍になりかねないから」と排撃しようとしてきたおじさんのことです。ここを枉げては目の前の清盛に示しがつかない。
今回ばかりはどうしようもないとわかっている盛国は即答。「両二日のうちには、行えとの仰せにございまする」
そう聞いたおじさんは清盛に「お前が斬れ。 見届けて欲しいと言うたな。己が平清盛であるということを。ならば、お前が斬れ」と告げるのです。清盛の覚悟を問うのです。平氏を預けるに足る男なのか、それ自らの死で見定めようと。
一方義朝も当然思い悩んでいます。そして今度は髭切に八つ当たり。すると為義が現れて「これは源氏重代の名刀、友切なんだから粗末に扱うんじゃない」と、すごく静かに言い、ていねいに拾うと義朝に渡すのです。この時初めて義朝は友切を為義から授かったのです。以前は弟をぶっ殺して手に入れたわけですから。自分を倒し殿上人となった義朝を認めたわけです。
義朝は「髭切と名をあらためてございます」と返事します。返事できます。これまで親子の会話ができなかった二人が、片方の死をが目の前にあるという異常事態に至り、ようやく正常に話ができるようになったのです。
為朝は自分に敵したはずの義朝に「孝行な息子じゃ」と言い、「わしの首を刎ねよ」と続けます。「親兄弟の屍の上にも雄々しく立て。それがお前の選んだ道。源氏の栄華へと続く道じゃ」と、ごく静かに。小日向さん、魅せます。
頼盛は自分の代わりに上皇方へ与した忠正にただただ謝りますが、忠正はもとより覚悟の上ですから、申し訳なく感じる必要はないと。平氏のためには喜んで斬られると言います。これは、今後の頼盛のスタンスに影響してくるんでしょうね。
忠正が息子たちに「決して一門を恨むでない、恨むならこの父を恨め」と言い渡し、一門に見送られて刑場へ向かいます。忠正を上皇方へ向かわせた池禅尼(頼盛ママ)と忠正おじさんは視線を交わすだけ。いらだったような顔でそれを見ている清盛。どこまで事情を知っているんでしょうか。ところへ、飛び出してくる清三郎(宗盛)。「おじさん、竹馬まだ?」
泣かすね。
忠正「すまんな、まだできてないんだ」
清三郎「では、お帰りになりましたら!」
忠正「ああ、そうしよう」
清三郎「きっとにござりますよ!」
一方源氏側では由良さんが鬼武者(頼朝)に「ウッソは見ておきなさい」もとい、父が祖父を斬る姿を見に行けと命じます。すごいお母さんだ。頼朝は「マジすか」って顔をするんですけどきちんと見に行くんですね。一方何も知らない清三郎宗盛。この二人、同い年で、同じ三男で、兄が二人とも死んじゃって棟梁を継ぐと似たところがたくさんありますが、ううむ。
それで。
それぞれの処刑場に西行と鬼若と変な観客が来ているのはまあどうでもよくて。それぞれ対比してきた脚本ですから、まあ清盛と義朝の「斬れませぬ!」の声が重なりますわな。その後ですよね。

「お前はやっぱり棟梁の器でなかったと、十万億土で兄上に言われたいのか!」と、猛烈に煽りを入れる忠正おじさん。ずっと清盛には厳しかった。一方為義パパは「もう良い。泣かずともよい。お前の手で黄泉路へ旅立たせてくれ」と猛烈に優しく諭す……いやむしろ泣く子をあやすみたいな勢い。叔父甥じゃないですから。父と子ですからね。血は猛烈に濃い。自分を斬らねばならぬという哀れさはこっちの方が数段上です。この為義のあやし方がほんと優しげでしてね。ああこのために小日向さんを起用したのか……このためか……とめちゃくちゃ納得してました。
そして煽られた清盛、諭された義朝、両人、気合とともに同時に得物を振り上げて、一閃!
ところが斬れたのは清盛だけで、義朝は髭切を投げ捨ててへたり込んでました。「武士は強くなきゃダメだろ」「最強の武士は源氏」そう言っていた義朝が遂に斬れず。「斬れない! 無理!」とのた打ち回る義朝に為義は「いい、いいんだよ」と引き続きあやします。結局見かねた鎌田正清が代わりに手を下すのでした。「父上!」と叫び泣き出す義朝。忠正おじさんの息子たちは「さあ、我らもお斬りください」と口々に言い、為義の息子、義朝の弟たちは「父上の最後の頼みも聞けなかったお前が父と呼ぶな!」「見苦しすぎるもうこんなの見たくも聞きたくもない早く斬ってくれ!」と言い、平氏側刑場はいっそ清々しささえ漂いますが源氏方はもう阿鼻叫喚。これを鬼武者はきちんと見ているわけです。目を見開いて。
そしてこの後は妻同士の対比があります。「棟梁の妻とはどういうことなのか、やっとわかった」と言うのは時子。夢見る少女じゃいられないともはや源氏物語の残滓も見せず、ひねくれていた妹の滋子にも「一門のためになることをせよ」と命じるのです。覚悟が決まりました。
由良は常磐に「どうぞ殿をよろしく、私では彼を慰めることはできないから」と。そして常盤の子を見て「どうぞ優しい子に育てなさい。私は鬼武者(頼朝)を強き男子に育てなきゃだから」と。本当に強い子になりますよ頼朝。あなたの教育のおかげで。父親が祖父を斬れず。叔父に散々罵られる様を見、そしてその後腑抜けたようになってしまった義朝を見て鬼武者は「元服したい、早く強くなって、父上をお支えしたい」と言います。以前は義朝が蛮族レベル高めてめちゃくちゃやってた時に嫌そうにしていた頼朝からこの台詞が出ました。そしてこれは4話で義朝が為義に言っていたことと同じなのです。ダメ親父を見て強くなろうとする源氏の伝統になりました。ということはこの頼朝もまた、ダメ親父の犠牲の上に……。ということ。

この顛末を信西に伝えるのは藤原師光(家成さんの養子)です。付け加えて「別に忠正とかどうでもよかったんでしょう? あなたが殺したかったのは為義の方。藤原摂関家のイヌだからね。思えばあの戦の最中いやさその前からあなた様はこうなるように仕組んでいた! 殿の苛烈さと言ったら亡き悪左府様の比ではない! 師光は、どこまでもついていきますぞ」とか言います。典型な悪人セリフですが信西はこれを聞いて落涙。頼長の日記を読んだからですかね。

さて、おじさんを斬ってへこんでいた清盛には後白河帝から「戦勝お祝いパーティ」への招待が届きます。さすがの成親も「急な病と申し上げましょうか」と気を遣うのですが、清盛は「いや、行くよ」と言うのでした。
パーティではあの関白忠通が手ずから清盛に酌をするのですね。気遣っている、というのと、平氏が本当に力をつけた、ということ。4話で忠盛パパをコケにした首謀者がこういうことをしているわけです。
なのに後白河帝は「俺たちゃ勝ったんだよ! 生きてるって楽しいなあ! ゾクゾクするだろう翔太郎!清盛!」といたわりの心の欠片も見せないわけです。
でも清盛はここで平伏して「此度は、かように晴れがましき宴にお招きいただき、身に余る誉れにござります。今後ともお導きいただきますよう、お願い申し上げまする」と言うのです。「今後ともお導きいただきますよう、お願い申し上げまする」4話でコケにされてもなお平伏していた忠盛パパと同じ振る舞いをするのです。清盛は、変わった。

宴の後、清盛は「武士の力を見せつけたところで、何も変わらぬ! 変わっておらぬ……!」怒りをぶちまけます。そこへ現れたのは信西。「だれでもよいゆえ」が来るかと身構えてしまいましたけど大丈夫でした。
「その通り。戦に勝ったからといって、何も変わらぬ」「重き荷を背負いて、この国の宝となれ」とわりと勝手な事っぽいことを言います。
当然清盛にパンチされました。「太刀を手にしたこともない者が、気楽なことを言うなァ!」
「太刀なら私も振るうておる!」「世を正すため、心の太刀を振るって、その返り血と、己の血反吐の中で生きている」こんなことを言います。頼長に感化されたのでしょうか。頼長らしく振舞うということは、こいつも碌な死に方をしないのです。

まさに転機という回でした。清盛だけにではなく、義朝、時子、由良、信西、頼朝と。そして4話がこの話にオーバーラップして。ずっと見続けてきた人たちへのサービスのような回でもありました。

前回予告を見たときには斬れない清盛、斬る義朝、みたいな展開になるのかなと思いましたが見事なミスリードでした。
思えばこうなるのはここまでの積み重ねから導かれていたのです。
どうして清盛に斬れて義朝に斬れないのか。
甥と叔父は二親等、息子と父は一親等です。「義朝は弟とか殺してるのに何で斬れないんだ」って言いますけど弟は二親等ですし、そもそも弟とか自分と全然違う環境で育っていて接点すらなかったりすることもありますし、ほぼ他人だったりするんですよね。
そして清盛は"もののけ"白河院の子であり、忠正とは血のつながりはない。義朝と為義にはある。
忠正おじさんはいつまでも敵役となってくれたけど、為義は実父だから最後に息子が哀れになってあやしてしまった。
常に一蓮托生と口にし、平氏を背負う棟梁だった清盛はここで斬らざるを得ない。しかし義朝は親兄弟を捨てて戦ってきたから同じ棟梁と言っても背負うものが少ない。「強い武者」を口にしてきたけどそれとは裏腹なことになった。
裏腹になってしまったってことは4話で「父上をお守りいたします」と言っていたけど、その頃の義朝に戻ったってことになります。また4話が出てきた。
この4話をベースにした組み立てがほんと見事でした。見続けて来た甲斐があって面白いものが見れたわー、と素直にうれしく思えますね。今後はこれまで積んできたものを使ってどんどん面白いものを見せてくれるのでしょう。期待です。

*1:だから舞子が白河院の前で矢を射かけられまくって死ぬとかは本当はないんですが