腐れ儒者になるために

 今日はこの本「三国志 将の名言 参謀の名言」を読みました。

 この本には、三国志に出てくる人物の名言、三国時代に生まれた名文句を集め、その背景について書かれています。

三顧の礼」「脾肉の嘆」「士、別れて三日、即ち刮目して相対すべし」

という有名どころから、

「我卿を得て諧(かな)うなり」

という無名どころまで色々載っています。

 私の夢のひとつに生きているうちに一度でも正しい意味で「腐れ儒者めが!」と言うか、言われるかというのがあります。

 儒者というのは儒学者のことです。儒学という学問について研究する学者で、古代中国の漢王朝においては儒学国学とされたので、大きな権威をもっていました。

 この儒学者というのは発言するたび何かにつけ昔の出来事を引用したがります。

「昔、周の文王は天下の三分の二を領しながらも、殷に仕えていました」

というようなのが儒者の常套手段です。

 昔の立派な王様はこうしました、だから成功しました。なのに今のあんたのやり方はどうなんだ、それと違うじゃないか

とか、

昔のダメな王様はこうしました、そして失敗しました。今あんたのやってることはそれとそっくりだ

というようなことを言うわけですね。

 で、聞き分けのない殿様からしたらこういう発言は耳に痛いか、それとも自分が絶対に正しいと思い込んでいるので、こういう発言は鬱陶しいわけです。

 そこで「黙れ! この腐れ儒者めが!」という発言が出るわけです。

 ですので、「腐れ儒者めが!」と言いたい/言われたい私としては、昔のことを学んでおく必要があるわけです。

 というわけでこの本を買ったのですね。三国志好きですし。

 で、レビューなのですが。

 確かに、三国志中の名言は押さえています。押さえていますが、その背景説明に難が。

 取り上げた明言から背景説明文がズレていることがどうも多いです。その名言の1年前の話を詳しくしていたりとかします。

 また、誤認誤記も気になります。

 例えば、

黄巾の乱」勃発後のまだ霊帝生存のころ、荊州の襄陽にホウ徳という曹操に仕えた武将がいる。彼は劉備の部下、関羽の額に矢を射当てるなど目覚しい戦いをする。ホウ統は、そのホウ徳の甥である。

などと書かれています。

 確かにホウ統は襄陽に住んでいたホウ徳という人物の甥なのですが、このホウ徳と曹操配下の武将であるホウ徳とは別人物です。襄陽のホウ徳は完全な文人です。

 また、武将の方のホウ徳は関羽の肘に矢を命中させていますが額には命中させていません。そもそも額に命中させたら死ぬのではないのですか。

 関羽が生け捕りにされて、その後孫権に処刑された(戦死ではない)のはそれなりに有名な話ですから、三国志の本を書くぐらいの人なら間違いに気付いて欲しかったものですが。

 他にも曹沖が曹操の次男であるという記述もあります。

 曹操の息子はたくさんいて把握しきれないほどですが、早く生まれた順に曹昂曹丕曹彰曹植と、このあたりまではそれなりに有名です。

 ここで曹昂は一番年長ではありますが嫡男ではなく(側室の子)、しかも早世しているので、長男は曹丕、とされる場合が多いようです。なので曹操の次男と言えばだいたい曹彰のことをさします。

 というような、細かいことを気にしないのならば、まあキモである名言とその意味だけはカバーしているのでOK

 ……でもこういう本って細部が重要だと思うのは私だけですか。薀蓄が間違っていてはどうにもならん気が。

 (腐れ)儒者になるにも細部を間違うと腐れ儒者と言われる前に間違いを突っ込まれてしまうのでうまくありませんね。

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