コンポーネントをくまなく使うお話 - Board Game Advent Calendar 2014 21th

Board Game Design Advent Calendar 2014 の21日目としてこの記事は書かれました。
20日目のShunさんの記事、興味深かったですね。『開拓王 The King of Frontier』は私も遊んだことがあるのですが、深く考えなくてもサクサク遊べる、でもよーく考えるとこれは深いな! と思っていたので記事を読んだ納得感は大きかったです。
さて、まずは自己紹介をば。わたくし、れらしうと申します。「見滝原を覆う影」「マミみん〜マミさんのドキドキ☆みんな死ぬしかないじゃない!」「見滝原は狭すぎて」「ダイスター・ウォーズ」などのゲームを制作した者です。二次創作ものが多く、今回の Board Game Advent Calendar 2014 の参加者の中では、イロモノなんじゃないかなー、と自分では思っています。
今回のお話は以下の構成でお届けします。
1.前段
2.具体例
 2-1.具体例1:同種の情報をまとめる
 2-2.具体例2:使い回しできるコンポーネントに別種の情報を同居させる
 2-3.具体例3:カードの裏面に意味を持たせる
3.注意点
4.終わりに

1.前段

今回のお題は「コンポーネントをくまなく使うお話」です。前段につきましては、6日目の『Junias』さんの「海外からみた日本の非電源ゲーム業界の特殊性について・他」とも関連してきます。
「日本ではミニマルゲームが盛んである」というのが、ここ数年の海外テーブルゲーム界隈での日本の評価のようです。
なぜ日本ではミニマルゲームが主流とされているのでしょうか。
日本の商用テーブルゲーム、かなり頑張ってくれてはいますが、テーブルゲームが盛んな国とは市場規模が違い過ぎまして、他国産のゲームを日本語化したものがメインとなっています。これらを日本産のゲームと呼ぶことはないと思います。では純日本産のゲームはどこにあるのかというと……大雑把に言えばゲームマーケットです。ゲームマーケットで入手できる、インディーズや同人などの、小規模なパブリッシャによるゲームがミニマルと呼ばれているのです。日本のミニマルゲームとして世界に名高いカナイセイジさんの「ラブレター」も、ルーツはゲームマーケットにあります。
ではなぜ小規模パブリッシャによるゲームがミニマルゲームになるのでしょうか。身も蓋もないことを言いますが、これは予算によるところが大きいです。
テーブルゲームコンポーネントは、ほんとうにお金が掛かります! 小規模パブリッシャですと、大量発注によるコストダウンを図れないのでなおさらです! 
例を挙げますと……
拙作『見滝原を覆う影』は、名前から察していただけるように『キャメロットを覆う影』の影響下にあります。「まどか☆マギカの協力型ゲームを遊びたい……遊びたいけど世の中に存在しないから自分で作るしかないか!」と思い至った時に、同じ協力型ゲームとして『キャメロットを覆う影』を思い浮かべたのですが、10秒で却下となりました。なぜならば、『キャメロットを覆う影』はとてもコンポーネント(ゲームに含まれる部品)が多いゲームだからです。同種のゲームを作ろうとしたら原価がとんでもないことになり、赤字を覚悟して値付けしたとしても誰にも見向きもされないゲームとなったでしょう。このため『見滝原を覆う影』は『キャメロットを覆う影』とは全く異なるゲームとなり、その影響はネーミングだけに留まることになりました。
……というわけで、小規模パブリッシャにとってはコンポーネントのスケールを抑えてデザインすることが重要になってきます。ところで、このスケール、ひいてはコンポーネントを数を抑える手段には大きく分けて2つがあります。

  1. コンポーネントが少なくてすむゲームをデザインする
  2. 1つ1つのコンポーネントに複数の役割を持たせて数を圧縮する

1.につきましては、『ラブレター』を遊んで感銘を受けた自分が「コンポーネントの少ないゲームを作ろう!」と制作を始めたところカード50枚のゲーム*1ができあがりましたので、私は語る術を持ちません。
ですので、今回は2.についてのお話となります。

2.具体例

私が制作した「見滝原を覆う影」「マミみん〜マミさんのドキドキ☆みんな死ぬしかないじゃない!」「見滝原は狭すぎて」の3作品には、いずれにも役割を複数持ったコンポーネントが存在します。それはゲームデザイン側でコンポーネントを絞りきる能力が欠けていたからでもありますが、逆に言うと今回の話はそのようなスキルのない方(私がまさにそうなので)にとっては武器となるはずです。これらの具体例を挙げて説明していこうと思います。

2-1.具体例1:同種の情報をまとめる

「見滝原を覆う影」

このゲームは協力ゲームで、毎ターンイベントカードをいうものを引き、それによって悪いイベントや倒すべき、いわゆるモンスターが出現したりがランダムで発生する仕組みになっています。このモンスターですが、まどかマギカ本編では、時間経過で「進化」することが示唆されていました。
この「進化」することはゲームデザイン上有用なジレンマになるとにらんだので、ゲーム中でもモンスターは「進化」することとしました。
しかし、モンスターの進化前と進化後を別々のカードとするとカードの枚数が倍になってしまいます。また、進化が発生した際に対応する進化後のカードを探すという作業も必要となり、非常に取り回しが悪い状態でした。
そこで、進化前と進化後は一対一で対応していることもあり、このカードを1枚にまとめることとしました。
では、実際に現物を見てみましょう。

カードを引いた直後は必ず進化前となります。カードを横に置いて、自然に読める方(右側)のデータを使用します。

時間が経過すると進化が発生します。カードを縦に置いて、自然に読めるようになった方(上側)のデータを使用します。
これによって、以下のメリットが発生しました。
・カード枚数を増やさずモンスターのバリエーションを増やすことができた
・進化する際はカードの向きを変えるだけで良く、進化後のカードを探す必要がない
・カードが縦か横かで進化前/進化後を判別できるので、パッと見で強敵かどうかわかる

2-2.具体例2:使い回しできるコンポーネントに別種の情報を同居させる

「マミみん〜マミさんのドキドキ☆みんな死ぬしかないじゃない!」

このゲームは非公開の手持ちのカードを使用して殴り合いをするゲームです*2。殴り合いが発生するまでは協力ゲーム風で、毎ターンランダムにHPが回復するモンスターを協力して殴ります。モンスターが倒れたら即座に殴り合いになるという仕組みです。このモンスターは、まあ、殴り合い開始までのターンがわからなくなるするためのランダマイザです。
モンスターのHPがランダムに回復するのはカードを用意して、毎ターンカードを引いて公開し、公開されているカードの合計値を現在のHPとしました。殴られて受けたダメージは、公開されているカードを破棄することで表現します。
さて、このモンスターはランダマイザなので、あんまり先が読めるようになると良くありません。ランダムなHPの回復量にはバリエーションを持たせたい。しかしバリエーションを持たせるとカードの枚数が増えてしまいます。それに、このランダマイザの部分はゲームの本題ではありません。ゲームの主役はあくまでのプレイヤー同士の殴り合いなのです。
そこで、HPを表示するカードと手札で使用するカードを一体化させました。手札で使用するカードがすべてプレイヤーの手元に行くことはありませんので、必ず山札として「余り」が存在します。そこで、その余りの分をHP表示に利用できると考えたわけです。
以下が実際のカードとなります。

下にoktaviaと書かれている隣に書かれている数値がHP表示です。その他の部分は、手札として使用するためのデータです。
これによって、以下のメリットが発生しました。
・カードの枚数を増やすことなくランダム要素を確保できた
・モンスターのHP表示に使用された手札用カードは公開されるので、なんとなく他のプレイヤーの手札が推測できるようになった

2-3.具体例3:カードの裏面に意味を持たせる

「見滝原は狭すぎて」

これはコンポーネントの節約とはちょっと違いますが、コンポーネントを増やさずゲームの要素を増やすことができるお話です。
このゲームはバッティングありのトリックテイキングなのですが、ポイントはトリックで獲得する報酬(勝利点)がランダムになっており、何点なのか事前に知っているのは親だけであることと、トリックを取った場合、使用したカードの強さが勝利点から減点されることです。
つまり何も考えずに飛び込むとトリックを取ってもしばしば赤字が発生するゲームです。しかしここで本当に報酬(勝利点)がランダムだったらちょっと大雑把過ぎるゲームになりますよね。
そこでトリックを取り合う際には伏せられている報酬の勝利点カードの裏面に、このカードのおもて面には何点の勝利点が書かれている可能性があるのか、ということを記載しました。
以下がその裏面です。

例えば、背景が赤色の裏面を持つカードの表には0,0,15,22,22のいずれかの勝利点が書かれているというわけです。
カードの裏面は3回先のトリックのものまで見ることができるので、どのタイミングで親になって事前に勝利点を正確に知るのかという作戦を立てたり、裏面の数字を見て出す手札を調整したりすることができるようになりました。
・適度にランダム性をおさえ、プレイヤーが作戦(見通し)を立てられるようになった
・獲得して伏せられたカードの裏面を他のプレイヤーが確認できるので、勝利点の目処を付けられるようになった(誰が何点くらいとったのだろうと頭で暗記しておく必要がない)
また、このゲームでは上述のようにトリックを取ることに赤字のリスクを伴うため、ゲーム序盤に大勝ちしたプレイヤーがその後降り続けて勝利するパターンが出たため、トリックに敗北するごとに1点勝利点を失うこととしました。トリックに使う手札用のカードの裏面に-1と記載することで、敗北回数をカウントできるようにしてあります。

3.注意点

今回のお話には、非常に重要な注意点があります。
それは、複数の意味を持たせることによってコンポーネントの視認性を下げないことです。情報を詰め込んだためにカードの文字が小さくなったり、文字がびっしりになってごちゃごちゃするようですと、遊びにくくなってしまいます。それは避けましょう。そうなるような時は、コンポーネントの圧縮は別のところでやるべきです。はっきり言いましょう。ゲームを遊ぶのに重要な情報を読み取りにくいゲームは2回目を遊んでもらえません!
ゲームを遊ぶのに関係ない文字ならいくら小さくても大丈夫ですけどね。フレーバーテキストですとか。

4.終わりに

このように、コンポーネントに複数の役割を持たせることによって、コストを増やさずゲームの要素を増やすことができます。費用面で厳しい小規模パブリッシャにとっては強い武器になることかと思います。
さて、考えていくと、新たに役割を与えることができる使えるコンポーネントは色々あるはずです。例えば、箱の裏側や内側というのもありますね。箱はゲームを収納するという役割を持っていますが、ここにも印刷をすることが可能です。しかも結構頑丈に作られていることが多いので、箱をボードの代わりにすることもできるでしょう。もう少しひねって、箱からコンポーネントを取り出してゲームを始めると、進行中にボードになっている箱の中へコンポーネントがどんどん入っていって、ゲーム終了時には片付けが終わっている! とかいうのも面白いかもしれませんね。
他にも、軍隊同士が激突するゲームを作るとして、兵士数≒ライフカウンターとしてサイコロを採用するとしますと、その攻撃力を持ってるライフカウンターとして持っているサイコロを振ることで兵士が多いほど攻撃力が高い! といったようなこともできます*3
予算が厳しいからコンポーネントを削らなきゃ! でも減らせない……みたいな際に、参考になればと思います。
ちなみに、見滝原を覆う影ですが、冬のコミックマーケット1日目西ホールのい-09a「K's Factory」さんに少量委託させていただきますので、ご興味おありの方はどうぞよろしくお願いいたします。
さて明日は実は結構ボードゲーム人口増加に寄与しているんじゃないのと言われるニコニコ動画でのボードゲーム紹介界隈の第一人者である円卓Pの記事です。秋のゲームマーケットではご自身も「姫騎士逃ゲテ〜」というゲームを制作されました。私も1つ入手したのですが、きっと面白い記事を書いてくださるはずなので、注目ですよ。

*1:マミみん

*2:ただ、殴り合っておきながら殴り倒すことが目的ではなかったりしますが……

*3:ただこれは乱数の振れ幅が大きすぎるので、その乱数が直接影響しないよう何らかの工夫が必要でしょうけれども