平清盛 1話

開幕はきったない頼朝 with 源氏のみなさんがなんか柱を立ててるところに北条政子(タイムスクープハンターのオペ子)が現れて「平家滅亡したぜ!」と報告するシーン。
これを聞いた頼朝配下のみなさんは「武家が貴族のふりをするから滅亡するんだーぜー」とか平家を口々に罵りますがそれを制して「清盛がいなかったら武士の時代なんか来なかったんだよ!!」とキレます。

まずきったないのがいいですね。きったなかったり画面が暗い大河は今の所私の趣味に合うものが多い感じ。風林火山とか、龍馬伝で弥太郎がきったない格好してたころとか。
このシーンで頼朝が今後ナレーションをするよということを表しているのですが、なぜ頼朝なのかは謎ですね。頼朝が出てくるまで待たねばならないのか。

本編に入ると、平正盛、忠盛親子の盗賊追討から始まるのでした。何か刺された?*1 朧月からは血が流れ出す音とかしていてほんとシビアな感じ。
で、都に凱旋すれば貴族の関白に血を嫌がられると。武士が汚れ仕事を請け負ってるということが示されます。この表現が正確なのかはちょっと私にはわからないのですが、平安時代は貴族とかその辺は血とか死とか以前にそれらをもたらす武力自体を呪術的な側面から嫌いぬいています。そのせいで政府に常備軍が存在しない(!)ので、武士が出現してこのような仕事を請け負っているわけです。なので、正確かどうかはわかりませんがこの表現は充分に妥当なんだと思います。
で、中井貴一 as 忠盛が「武士が血まみれで何が悪いんだよバーロー!」と河原で身体を洗ってると、そこへ倒れこんだ女性が身籠っていて、白河院の子供という。
白河院はその子供が王家に仇なす存在であると陰陽師から言われていて、流すべしと命令していたが、元白拍子のこの舞子は従わず、逃げてきたといいます。当然白河院から追捕命令が出ていて、孫からナレーションで dis られている源為義が追っていたのですが、取り逃していました。
ここで忠盛と舞子は揉めます。「王家の犬! いくらでも人を殺してきたんだろ! 自分を突き出すくらいなら子供もろとも死んでやる!」「ふざけんな! 母親が子供殺すとか言うんじゃねーよ! 大体何のために俺らが人殺ししてると思ってるんだ! お前らみたいなのを守るためだろ!」
忠盛は諸々の事情を家族会議で話した上で「それでも俺が匿います」と宣言。父親とか弟の反対を押し切ってです。
これを恩に感じた舞子と忠盛は打ち解けていきます。舞子は忠盛の前で今様(流行歌)を歌ったりなんかして。

遊びをせんとや生れけむ
戯れせんとや生れけん

これは後白河院が歌好き過ぎたのでまとめた書物『梁塵秘抄』にある今様ですね。
聞いた忠盛は「ちょー暢気な歌っすね。生きてればきついこととかたくさんあるのにさ」と感想を漏らします。自分の仕事をまっとうしているのに貴族に忌み嫌われたり、自分が殺した盗賊の子供がホームレス化してるのを見てちょっと厭戦入ってますね。「武士が厭戦」というと最近のスットコドッコイ大河風ドラマの定番ですが、今回は「何が何でも武力行使はダメ!」とかではなくゆえあっての厭戦なので意味合いは違うかな。
その感想を聞いた舞子は「いやーでもさ、つらくても苦しくてもずっとそういうわけではないし、楽しくてもつらくても苦しくても子供が遊びに夢中になるように生きて生きたいじゃない」と反論します。
とか言ってると源小日向為義にばれて連行されてしまうのでした。
ここで白河院が本格登場。伊東四朗です。雰囲気たっぷりのおかしな人です。即座に忠盛は駆けつけて、舞子を庇います。
「院におかれましては陰陽師のお言葉に軽々しく動かされ、国家の大事を誤るようなことのありませぬよう」
「そうかそうか。でもさ、お前の言う通りにすると俺は陰陽師にころっと騙されたバカになるよね。俺の面子が立たないじゃん。誰か死なないとダメだよね。忠盛、お前舞子殺せや。盗賊とか殺しまくってるしヨユーでしょ?」
はっきり言えば死や血どころかその元となる武力事態を忌み嫌いまくっている当時の貴族文化からすると、御所で血を見る、見たい、歴史考証的にこれはまったくありえないんですが、白河院は気違いなら気違いの方が面白いのでここは私は敢えてスルーします!
忠盛は当然ヨユーで殺せるはずがありません。動けずにいると、舞子が子供を忠盛に預けます。で、懐から匕首を取り出すと白河院へ突進……当然これは弓矢で防がれて届かずです。
場面転換して。忠盛は父親から「だから王家の言うことに従わないと碌なことにならないって言っただろ、その子供も殺しとけよ」と言われますが、子供に「お前は俺が俺の子として育てる。平家の太郎で、平太だ!」と強く宣言するのでした。この子が後の清盛。
これはいわゆる貴種流離譚というやつですね。結構力技かなあ。
清盛が白河院落胤という説は昔からあるんですよ。それは忠盛や清盛が異常に出世したことを後付けで説明するためなわけですけどね。でも今回は白河院から嫌われ抜かれているわけで、出世も何もあったもんじゃない。忠盛に、この子を自分の子として育てるメリットがないわけですからね。その点で言うと白河院落胤説はこの話の中では説得力を失っている。のですが、まあ面白いからいいかなと。素っ頓狂な考証抜けは見てる方を白けさせるからダメなんですよ。歴史番組ではなくて歴史ドラマなんですから、面白ければ多少の考証がおかしいのは許されて然るべしと思っています。
あと、白河院落胤説は今話したように前方に対して説得力を失っているのですが、後方に対しては面白いかもしれません。つまりどういうことかというと、
王家の仇となると思われた清盛を白河院が生かした→清盛のために王家を平家が凌駕するようになった
平家の仇となると思われた頼朝を清盛が生かした→頼朝のために平家は源氏に滅ぼされた
という対比になっている可能性があります。そうすると頼朝ナレーションの真意も見えてくるかも知れないですね。
ここから7年後に飛びます。
忠盛が平太とクルージングしながら「心に軸を作れ、ぶれないようになれ」とか話してると、前方の商船が海賊に襲われています。これを確認した忠盛、即着衣のままダイブ! 海中から商船に乗り込んで ジャーン! ジャーン!「げえっ、忠盛!」という感じで出現すると三国無双よろしく一人で大立ち回り! 海賊を次々と海へ叩き落し、飛んでくる矢は太刀で払い除け、マストのロープにつかまってターザンよろしく隣の舟に飛び移ったと思ったらそのまま帆を斬って海賊を一網打尽に。ここまでやさしい忠盛でしたが、ここではかっこいい忠盛を印象付けます。
さて朝廷ですが、こっちは白河院が自分の義理の娘のはずの璋子とできちゃっていてお茶の間ではちょっとシビアな感じの絵が出てきちゃいます。問題はこの璋子は、白河院の孫の鳥羽帝の中宮、つまり妻なわけですね。この璋子の子供が「お父さん絵が描けたー」って言って絵を持って行った先が鳥羽帝じゃなくて白河院で鳥羽帝はウギャーってなるわけです。この辺が保元の乱の遠因になっていくわけですね。
視点は平太に戻って、舞子を死なせてしまったことを負い目に感じて良くしてくれている祇園女御と双六なんかをしています。
家来「これは平太殿の負けっすかね」忠盛「2d6で12出せば勝つる」→6ゾロ
みたいな感じで平太は「持ってる!」みたいな印象付けをされます。
何気にこれは重要な話だと思います。
白河院は化け物化け物と言われ、その権力たるや絶大であり、本人も「この世は基本的に俺の思ったとおりになる」と言っていますが、その続きが「でも三つだけ思い通りにならないものがあるのよ。賀茂川の水の流れ(水害)、比叡山の僧侶(僧兵の強訴)、ダイスの出目」となります。つまり、白河院に害されそうになった息子の清盛が、父にはない能力を持ち、父を最後には凌駕するという筋立てということになりますね。ギリシャ神話かシェークスピアかって感じになってきた。
で、その父を克服する息子がこの後試練に遭遇します。ある日実子がケガをしてしまったために取り乱した義理の母にぶたれた平太は家を飛び出して父親が斬り殺した盗賊の息子と遭遇したりして自分が忠盛の子ではないということに気づきます。雨の中走り回って祇園女御を問い詰めたり白河院に無理矢理会って「犬!」とか言われます。まあちょっとやりすぎ感はありますが。御所には入れないだろとは思いますが。

アイデンティティを喪失した平太はそのまま家に帰らず、門の下で一夜を過ごします。翌朝そこで飼い犬の死骸を見つけます。「なぜじゃ」と叫ぶ平太を、忠盛が見つけます。
忠盛「犬同士で争い、負けたのであろう。弱いゆえ、負けたのじゃ」
平太「父上」
忠盛「お前と血を分けた父は、法皇様だ。だがお前は平氏の子だ。平氏の子として、この忠盛が育てたのだ」
平太「なぜでござりますか! 法皇様や、王家に取り入るためでござりますか! 父上はまこと、王家の犬なのでござりますか!」
忠盛「よいか平太! 今のお前は平氏に飼われている犬だ! 俺のもとにおらねば生きて行けぬ、弱い犬だ!」
忠盛「死にたくなければ!」
(剣をぬかるんだ地面に突き刺す)
忠盛「強くなれ!!」
この剣を平太が必死に引き抜いた姿が子役から松山ケンイチにオーバーラップして、第1話完と相成りました。
白河院に「犬!」とか言われてた時点で残り10分もなくなってて、どう収拾つけるんだよこれ……と思ってたらまあ随分と力強いラスト。
というわけで……ちょいちょい歴史考証的には「?」という場面もありましたが、総じて面白く見ることができました。ほんと、考証係の教授が匙投げたって話を聞いて震えていたのですが、これなら全然オッケーです。これから毎週楽しみですね。

あっそうそう、騒ぎになっている「王家」の件ですが、これについては私も去年の内に調査をしてみていたのですが、当時の天皇の宸筆に「王家の恥」というフレーズが出てきていたので、当時普通に使われていた語句とみてよさそうです。とりあえず本件は「他意はない」とみて、他に文句をつけなければならない所が出てきたらその時文句をつければいいのではないでしょうか?
それより自分たちの方が法皇を法王と書いてしまうとか、そっちの方に気をつけた方がよさげ。

*1:暗くてよくわからない/暗いのはいいですね!