小説:覇王ユグドラ

ユグドラマキャベリストだったらどうなるのか? ちょっと思いついたので書いてみました。

「……今日は何の話だ」
 ファンタジニア王国第三十一代国王オルディーンは、謁見を求めた娘ユグドラに対し、答えが分かりきっている問いを放った。
「軍の増強について進言申し上げたく」
 この話は、もう幾度聞かされたか分からない。そのたびに退けて来たが、ユグドラは所詮子供の言うことと侮られていると感じたか、わざわざ謁見を求め群臣の前で発言するようになった。
「ならぬと申しておるに」
 ユグドラにとっても分かりきっている返答のはずだ。投げかけられたきつい視線をオルディーンは受け流した。
「よいか、兵を増やすには税も増やさねばならぬ。ユグドラよ、必要以上に民を苦しめよと父に申すか」
 ユグドラは間髪入れずに切り返した。
「おそれながら陛下、自らの安全を守るため必要とあらば、民はすすんで税を納めましょう。費やしよりも大事なものは命です」
 オルディーンはその返答に、渋い顔をした。
「ならぬ。これ以上の軍は必要ないのだと父は言っておる」
 確かに、そうだ。そうであった。ユグドラは、そう考えている。
「陛下、私はこの国ひいては民の安全を守るのには今の兵では心許ないと申し上げております。以前とは状況が異なるのです」
「帝国か。民の膏血を絞り奢侈に耽った迷妄の皇帝は若者に討たれたという。喜ばしいことではないか」
 ユグドラはゆっくりと首を左右に振った。
「帝国の民にとっては仰せの通りかも知れませんが、王国にとりましては由々しき事態でございます。ガルカーサ、かの者は危険です」
「悪辣な皇帝を討ったのであろうに」
「悪辣であったかは諸人に判断を委ねましょう。しかし少なくとも前皇帝は奢侈に耽れども軍を強化し外部に武力を向けることはございませんでした」
 すう、とユグドラは大きく息を吸い込む。
「されど、現皇帝のガルカーサは既に武を用いた者。クーデターに用いた軍もそのままございます。王国に帝国の刃が向けられる危険は、ずっと増したと申せます。不義を討つ者の軍が義軍とは限りますまい」
 ユグドラは深々と頭を下げた。
「民草を無闇に危険にさらすことのなきよう、何卒軍の増強を」
「ならぬ。これ以上民に荷を嫁しとうない」
 オルディーンの言葉に、跳ね上がるようにユグドラは頭を上げた。
「ならばせめて、南方の軍を国境へお集めください」
 かすかに語気が激していたが、オルディーンは無視する。
「ならぬ。帝国はクーデターが起きたばかりであるとお主が申したではないか。国内が落ち着かぬところへ、国境の兵を増やしてみよ。帝国をいたずらに刺激し、それこそガルカーサは国をまとめるため来寇するやも知れぬ」
 ユグドラは父王の考えも一理あるとは思っている。しかし、国境の軍が手薄である場合、充分以上である場合、どちらが侵攻を誘発するかと考えると、
「では陛下、もう兵を動かす進言はいたしません。何卒、聖剣を私めにお与えの上、カローナの守備をお命じください」
 聖剣はファンタジニア王家に代々伝わる品である。建国王が神から授かり、立ちふさがる諸勢力をこの剣をもって斬り従え、ファンタジニアを興したとされている。その威力は絶大であるとされ、有事以外で振るうことは現国王自ら禁じている。その禁を破ることとはなるが、増強はおろか兵を動かすことすらならぬとならばと、ユグドラは最大の譲歩案を出したつもりであった。
「もう申すな。どの親が守りのため娘を国境にやろう。カローナの守りは充分である。キャヴェンディは武門の家だ」
 帝国との国境を守る要塞カローナ城の主、キャヴェンディ家は確かに武門の家である。建国王の右腕として武を振るったアーヴィンの子孫だ。だが、確かにアーヴィンは武勇武略に優れたが、爾来キャヴェンディ家は戦を体験してはいないのだ。
「カローナは建国以来平穏でしたゆえ、キャヴェンディは武門と申せどその力はいかばかりか」
 オルディーンは右手でユグドラの言葉を制した。
「僭越であるぞユグドラ。それに、お主はその建国以来平穏であったカローナに戦の火種を持ち込もうと言っておるのだぞ。考え直せ。下がってよいぞ」
「ですが陛下」
「お主が下がらぬと申すのであれば、父が下がるぞ」
 本気で言っている。オルディーンは玉座から腰を浮かせていた。
「はっ……失礼をいたしました。ユグドラ、退出いたします」
「うむ」
 ユグドラが退出し――親子はそれぞれが大きくため息をついた。

この後は赤く染まる王都をバルコニーから見下ろして「そら見たことか」と言うユグドラとか落城迫る城内で聖剣を見つけ「この期に及んでまだ聖剣の禁を破らぬとは!」「最後の切り札なのやも知れぬが、今となっては落城必至。ならば王国再興のため私がこの聖剣を役立てた方が余程!」と聖剣を奪って逃走するユグドラとかそんな感じでどうですか。

いやどうですかといってもユグドラアフターを終わらせる方が先ですけど。もうすぐ次回をお目にかけることができると思いますが。随分間が空いてしまってすみません。