新三国志 雷霆の如く

何か id:Louis さんに「夏侯惇がロボな漫画があるんですよ」とか吹き込まれたので読みました。というか私のような雑食性三国志マニヤに変な三国志モノの情報を渡すと触れずにはいられなくなるので勘弁してください。
長いので畳みましょう。
いわゆるトンデモ三国志系です。トンデモ三国志系というのは実は今考えたんですが、呪術やオーパーツ系等、現在の歴史学で考える限り、当時存在し得なかった技術物品がストーリーに深く関わる三国志、とお考えください、って、これじゃ三国志演義もトンデモ三国志系じゃない! 私の中の絶対正史主義者が「それでもいいじゃん」とか言ってますが世の中的にはそれでは通りますまい。トンデモ三国志についてはもう少し検討の余地があるな。まあ、この『雷霆の如く』はそういう系列の三国志モノであるという認識でいてください。

この世界では凶虎兵という人型兵器、ありていに言えばロボットが存在し、それをメンテ・運用可能な特殊技術者を凶虎兵技師と呼びます。凶虎兵技師は凶虎兵の運用だけではなく、陰陽的な何か*1の力を利用して物質の召喚*2などを行うことができます。これは凶虎兵が陰陽的な何かの力で動いているのでその力を外側に向けるとそういった用途に使えるということなのでしょう。
凶虎兵は材質不明ですがおそらく金属の外骨格を持ち、おそらく木製の人形(ヒトガタ)が中に入っています。人より力が強く機敏に動けますが個体差が存在し、生産のされ方によっておおよその力が決まるようです。大量生産しようとすると弱くなる傾向にあるようです。

話の筋としては以下のような感じです。
特に強力な凶虎兵を生産する集落の長老の息子であり、自身も非常に優秀な凶虎兵技師である主人公の夏侯博を、天下平定のため曹操がスカウトしに現れます。正式に曹操の配下になる前に、まずは曹操のやっていること、そして天下の情勢を知るために夏侯博は曹操に従い戦いに出ることになります。
この作品の曹操は女性です。まあもう曹操もいい加減女になるのも慣れたかな*3という感じですか。曹操が従える凶虎兵は曹仁曹洪といい、夏侯博の集落で昔作られた強力な凶虎兵です。夏侯博が従えるは夏侯淵。由来は語られませんがおそらく博が作成した凶虎兵で、特に弓での攻撃に長けます。
曹操、夏侯博は曹操配下の劉曄、満寵らと共に集落の陵墓を黄巾賊から奪還しに向かいます。この陵墓を砦状にして立てこもってる賊の指導者はなんと韓馥と荀イク
陵墓には龍脈があり、その力を利用して賊は凶虎兵を大量生産しているとのこと。これを聞いた博は満寵と二人で砦を迂回し、曹操軍が正面から圧迫をかけている間に龍脈に干渉し凶虎兵のコントロールを全て奪うという作戦に出ます。
しかし龍脈上の「陣」は書き換えられており、生産された凶虎兵のコントロールを奪えるようにはなっていませんでした。そこで博は龍脈に直接働きかけ事態を打開可能な凶虎兵の作成を狙います……。

えーと。打ち切りなんですよね。1巻でおしまい。つまり一巻の終わり。なんちて。そんなのはどうでもよくてですね。うーん、打ち切りもむべなるかなあってところですかね。
絵の雰囲気は漫画版ナウシカにすごく似ている気がしますね。ところどころ演出も。すると曹操クシャナで夏侯博はナウシカか。でもアクションシーンの描かれ方がどうもこなれていないというか、何が起こっているのかわかりにくいところがあってそこが難点。とは言ってもトライガンマキシマムにおいても私はしばしば何が起きているのかわからないのでひょっとしたら私の見る目が無いだけかもしれませんが……。
致命的だったのはやっぱりアクションシーンのわかりづらさかなーと思うのですが他にもせっかく凶虎兵というギミックを用意したのに説明不足で物足りなさを感じたというのもありますね。もっとも、説明に力を入れ過ぎると「僕の考えた設定を見て!」状態になってしまうので意図的に避けたのかもしれませんが……。私は消化不良でしたねえ。徐々に説明していくはずがその前に打ち切られただけかもしれませんけど。あと凶虎兵が強力過ぎて人間が従軍している理由がなさそうだったのも残念。凶虎兵に何か弱点をつけて補い合う感じにすると面白かったと思います。
さらに敢えて気付いた点を言うとすれば登場人物に満寵、劉曄、韓馥を選んだあたりは微妙に通っぽさを感じますがでもその点で話をするなら楽就とか程銀をいきなり出してきた一騎当千よりは2枚落ちって感じで中途半端。というか曹操配下は連鎖反応で紹介が紹介を呼んで配下が増えたわけで、どういう連鎖かと言うと

荀イク荀攸─程イク─郭嘉演義)─劉曄┬満寵┬毛カイ(演義)
   ├戯志才             └呂虔┘
   └郭嘉(正史)

こういう形になっており、劉曄満寵ルートは確保しているものの荀イクが敵方なのでどうもうまくありません。通っぷりを出したいならこの辺をしっかり抑えて欲しいものですがそんなのは作品の出来不出来とは全く関係ありませんのでこんなのを論じても無駄です。
ちなみに荀イクは史実では韓馥に招待されて配下になるために向かったのですが到着した時には冀州袁紹に乗っ取られており、そのままその配下に入ろうとしたら何か袁紹がダメだったので曹操の下に走っています。ので荀イクが韓馥の下にいるのは一応ありといえましょう。でも別にナシの設定使っても作品が面白ければ何の問題もないのでこれも論じるだけ無駄です。
全体的に言うと三国志的にも漫画的にも惜しい感じ。アイデアは悪くなかっただけに勿体無いかなーといったところ。うーん残念。三国志モノは飽和し過ぎてありきたりのはそのまま闇に滅して打ち切られ、奇抜だとやっぱりそっぽ向かれて打ち切られ、どうも天寿を全うしませんねえ。三国志ブームとは言えど、この状況はどうなんでしょうね。偉大な先人が壁となっているとはいえ……。

新三国志雷霆の如く (電撃コミックス)

新三国志雷霆の如く (電撃コミックス)

*1:作中に詳しく説明がありませんでした

*2:巻物か地面に描かれた「陣」を必要とするので≒鋼の錬金術師世界の錬金術と考えていいでしょう

*3:一騎当千、Dragon Sister!、三国志艶義、恋姫無双など