平清盛 21話「保元の乱」(5/27放送回)

山本耕史演じる悪左府藤原頼長は本当に素晴らしかったと思います。その悪左府の退場も近づいて参りました。保元の乱です。
保元の乱はその後の政治の状況を大きく変えてしまった、という点においては関ヶ原壬申の乱の匹敵するレベルの戦いでありながらも、ドラマ化される頻度と言ったら川中島桶狭間よりはるかに下といったありさまなので貴重なのです。ひょっとしたら金管日蝕とかと同じくらいのレベルで。ここまできっちり、きっちり伏線を張ってきたのですからそれはもう正座して放送が始まるのを待つレベルで、この回は期待をしておりました。
アバンタイトルでは京のマップを見せて双方の陣営の本拠地をと清盛・義朝の進軍ルートを示します。間に賀茂川が挟まっているのがわかりますね。

という感じに盛り上げておいて、OP 明けはお留守番の時子のシーン。盛国が、忠正おじさんが崇徳方についたことを知らせに来ますが、あんた従軍してないのか。なんか平家随一の出来人みたいな感じになってるのに……まあ留守居も重要な任務ですからね。

場面切り替わって後白河陣営本拠高松殿。
清盛と義朝が畏まっているところに信西さんが登場。「君たちイカス働きをすれば昇殿できる身分とかもあるかもねー」と発破を掛けます。これに義朝「これから命がけの働きをするの! その決心はついてるし、死んじゃったら昇殿もなにもないじゃない! 今昇殿させて! 今昇殿させてよ!」と喰らいついたらあのロック帝後白河にマジ受けして昇殿が許されちゃいました。清盛は(うまくやりやがって……)みたいな目で義朝を見ていましたが、この後のシーンでは義朝と一緒にちゃっかり昇殿しちゃってるので清盛の方がむしろうまくやりやがってる感あります。

どちらにも属さないような立場となった藤原忠実のシーンを挟んで、両軍の軍議シーンへ。藤原忠実さんは「何でこんなことに」みたいに思っているようですけど、わりとあんたも悪い。崇徳院は独自に軍勢を集めてはいないようなので、軍は頼長が集めたようなものですね。で、頼長と頼通の対立の原因を作ったのは忠実ですし。頼長が決起しなかったら崇徳院は行動しなかった可能性があります。

この軍議シーンが本当に面白かった!
崇徳陣営本拠白河殿と後白河陣営本拠高松殿とをザッピングしながら軍議が進んでいくのですが両軍の対比がほんと面白いこと。このドラマは対比がほんと面白い。
まずは白河殿。

白河殿(崇徳サイド)

悪左府「作戦について何か意見があったら言ってみて」
「お易いことじゃああ!」そこで立ち上がったのは見るからに人間兵器な源為朝(17歳)。
為朝(17歳)「拙者は飯を食らうように戦をしてきた……。その拙者が最も効き目があると思う策は……。 夜討ちでござる!」

高松殿(後白河サイド)

義朝「やっぱこういう時は夜討ちっすよ。東国の常識」
頼通「いや、夜討ちとかマジきもいし……」

白河殿

悪左府孫子に曰く、利に合えば即ち動き、利に合わざれば即ち止まる。我らはいま兵の数で劣っておる。それで攻めるのは利に合わぬ。大和の軍勢が着くのを待つのじゃ」
為朝(17歳)「何言ってるのかさっぱりわかんねえ!!」
「また孫子に曰く、夜呼ぶ者は恐るるなり。夜に兵が呼び合うは臆病の証。されど孫子にならうまでもなく、夜討ちは卑怯なり!」

高松殿

信西孫子に曰く、夜呼ぶ者は恐るるなり。夜通しこうしてピーピーと論じ続けるは臆病者のすること……と私は解釈した。同じく孫子に曰く、利に合えば即ち動き、利に合わざれば即ち止まる。たとえ夜明けを待つにせよ、ぼんやりと待つことを、孫子はよしとはせなんだでしょう。ならば動くがよし! 今すぐ!」
頼通「じゃあ、夜討ちで。すぐに出ろよ」

ここは本当に素晴らしいシーンだと思います。
まず両陣営でしゃべってるのは信西悪左府なので、この戦いは(後白河)天皇 vs (崇徳)上皇みたいに言われていますが実質的には信西 vs 悪左府頼長の戦いであることがこの対比により明らかになっています。

次に、両者孫子の同じ節を引いているのに違う結論が出ているところ。二人とも高名な学者ですから有名な漢籍であり荒事に関係する孫子なんぞはもちろん諳んじているから当然出てくるしきちんと学んでいるから的確な一節を取り出したらもちろん出てくるところは一致するのです。

その上で違う結論が出てくるという。
悪左府は教科書通り、理想を求め、間違いを正す志で立った人ですから、孫子は正しく解釈するし、卑怯な振る舞いはしないし、少ない兵力で夜襲とか博打は打たないのです。平家物語ですと、このシーンは折角の夜襲のチャンスを石頭な悪左府が提案を退けて終わり、なのです。ですがこのドラマでは孫子を引いてさらに大和に援軍がいて、上皇方が寡兵であることを示しているので悪左府が単なる石頭ではなく合理的に判断してこうなった、ということになっています。
一方信西は以前から悪左府に謀略を仕掛けてますから完全に野心に立脚してます。なのでやりたいことのためには孫子も枉げるし、卑怯な振る舞いだってするし、少々の博打でも打つのです。見事な対比でした。

これにより上皇方は夜襲は選択せず、為朝は大いに嘆き忠正おじさんは声にこそ出さないものの「大事去る」という表情を浮かべ、
天皇方は夜襲案を採用し、義朝は勇躍します。清盛何もしとらんな。まあ実際記録に残っている限りではあんまり何もしてないので仕方ない。

信西「義朝ナイスアイデアだったぜーやっぱ都の武者とは違うねー手柄を立てれば褒美は昇殿どころの騒ぎじゃないよ。ファイトファイト!」
と、義朝を送り出したのですが不満げな清盛が残っていました。
信西「何だよ清盛お前もさっさと行けよ」
清盛「都武者だけど俺たちもやる時ゃやるからさ!」
信西「わかったわかった」
こんな感じですけど実際の所この後信西が頼りにしてるのは源氏の武力より平氏の経済力ですよね。それを見抜いた師光は「殿、ちょっとー期待ばっかりさせちゃって義朝が可哀想じゃないの?」と突っ込みますが信西は「えー何のこと?」もうなんでしょうねこの黒さは。いつの間にこんな黒くなった。

引き続き平氏は作戦会議です。
清盛「敵の主力は鎮西八郎為朝。こいつを倒さなきゃならんね」
さらっと無理難題を言い出すので経盛とか教盛が浮き足立ちますがこういう時安心なのが脳筋伊藤兄弟。
「ならばぜひ、我ら兄弟に行かせてくださいませ」
これで陣中落ち着きます。戦争に脳筋は欠かせないのです。清盛は脳筋兄弟に息子らを加えて為朝に当たらせることとしました。そこで寄せ手に参加したいと申し出たのが清盛の弟頼盛。
清盛「お前は来なくていいから! お前は怖じ気づいてるからお前の手勢は無駄に死ぬ! だから不要! 出てくんな!」
と口では言ってますが実際は忠正が頼盛に代わって敵方についたことは了解していて、頼盛に忠正と戦わせるのは忍びないと思ったのでしょう。頼盛への思いやりなのですが、頼盛はこれを恨みに思ってしまいます。頼盛はこの後平氏一門でありながら平氏の敵対勢力と最も近い男になっていくので、その伏線なんでしょうね。
一方源氏陣では鎌田さんの舅長田忠致が参陣。
長田忠致「父親と敵対してでも自分の意志を貫くその態度に感服しました!」
このドラマの登場人物ってしばしば初登場時にその後のメイン行動や退場時の対比になる登場の仕方をするのですが、彼もまさにそうですね……。
平氏源氏の準備が整ったところで、後白河帝のアジテーション演説が始まります。とんでもないこと暴露しまくりですが、最終的に「混乱の根源は白河院にあった。これから白河殿を攻めるお前ら武者が新しい世を作るんだよ!」と結構なリスペクト演説で、清盛も義朝も士気が大いに上がったようです。単なるうつけではないな帝……。というところ。
鬼若「始まったか」
これまでちょいちょい出てきながら何もしてないですよね弁慶さん。何しに出てきてるの?
白河殿では攻撃を察知しました。ビックリする悪左府と防備を整えようとする為義さん。しかし家人の鎌田通清(鎌田父)が為義さんに前線に出るなと進言します。「息子同士が争うのなんか好きこのんで見ない方がいいです! 殿の身だけじゃなくて心も守りたい!」忠臣だ……。しかしわりとウエットなことも言うんですね。
賀茂川では義朝(長男)と弟頼賢(四男)が遭遇します。
頼賢「これはこれは、義朝の兄上。その友切を引っ提げて抜け抜けと、よう我らの前に出られましたな……。弟殺しに、父上への不孝、源氏の面汚しはそなたのことじゃあ!」
なかなか感情篭もった憎々しい物言いです。いいですねこういうの。そして対する頼朝の返答は矢! これを合図に戦闘が開始されます。
場面変わって白河殿南門には、人間兵器源為朝(17歳)が待ち構えていました。オーラがやばい。こんなの倒すの無理という雰囲気を破って名乗ったのは伊藤兄弟。
伊藤兄「俺は伊藤忠清! お前の名は!!」
為朝(17歳)「鎮西ぇ八郎為朝……!」
伊藤兄「やはり!」
為朝(17歳)「伊藤忠清と言ったか!」
伊藤兄「いかにも!」
為朝(17歳)「聞いたこともないな!」
伊藤弟「兄上、ここは私にお任せくださりませい! 伊藤忠直だ! 亡き鳥羽院の領地まで踏み荒らした、とんでもない奴はお前のことか! いざ、勝負!」
為朝(17歳)「我らの敵とも思わぬわ。だが、その口ぶりは小面憎し……鎮西ぇ八郎が矢を馳走せん!」
どう考えても伊藤弟の命運は定まりました。矢をつがえる為朝に応じて伊藤弟も応戦しようとしますが!
為朝の矢は伊藤弟を貫通!
伊藤兄の鎧に突き立った!
伊藤弟は爆発四散! ナムサン!
いや爆発はしませんが。この描写は保元物語にもあるものですね。こういう無茶をやっても許されるところにはガッツリ無茶を乗っけてくるのは大変愉快です。まあ為朝さんは弓で船を沈めたってエピソードも持ってる人ですから!
さて北門では寄せ手が清盛、守るはやっぱり忠正おじさんでした。まずは弓をもっての一騎討ち!
かなり変な絵に見えましたが、どうもこの頃は弓での一騎討ちって普通にあったみたいですね。しかし双方回避力がやたら高いのか何なのか、矢が尽きても決着がつきません。清盛は宋剣を抜いて、おじさんは腰の刀を抜いて打ち合います。これ強度的に刀やばいんじゃないの? と思ったら折れました。しかしすかさず刀は補充されてまだまだ戦いは続きますってもう朝ですよ。いつまでやってるんだ! と思ったら
兎丸
「おいコラ!エエかげんにせえ! いつまでこんなことやっとんのや! ええから門ブチ破らんかい!」
タイミング良すぎ笑いました。付き合ってられない兎丸は戦線離脱してしまいます。
そこへ平氏筆頭家人家貞が現れ、為朝の前に伊藤弟が討ち死にしたことを告げます。これにおじさんが反応。
「為朝倒そうとか無理ゲーじゃん。何やってんのこのヌルゲーマー! だから平氏をお前に任せらんねーって言ってたんだよ!」
この後はガンダムのごとき説教バトルです。わりといいことは言ってるんですけどどうも戦いながらでは間延びした感じは否めないですね。
賀茂川バトルでは義朝に援軍が現れます。
源三位頼政
鵺を退治したという伝説のある鴻上会長だよハピバースデイ!
鵺といえば! サル! トラ! ヘビ!
よく考えるとタカトラバッタとか鵺だよ後藤君!!!!
メダルの力で鵺を倒したんだよ! ハピバースデイ! 新しい伝説の誕生だよ!! 欲望! 以仁王! 令旨!!!
自分で何言ってるのかよくわかりませんが、まあ今後スポット当たるかもしれない系の人です。
再び白河北殿南門。為朝一人に崩され掛かっている寄せ手ですが、ここで颯爽と「鎌田正清見参!」
いやあなた義朝と一緒に居たのでは……為朝も「お前代々源氏の家人だろ?」と不思議がっています。そこへ先制攻撃を決める鎌田(息子)! 。為朝の左腕の木の盾にヒット! 本体にはノーダメージ。自分の隙を衝いた鎌田(息子)を為朝は褒めますが……。
為朝(17歳)「だが、為朝はこざかしい奴が気にいらんのだ!」
はい死んだ! 今鎌田さん死んだよ! 鎌田(父)が!
えっ何で……。
鎌田(父)「武士の風上にも置けぬことをしてしまった……。断じて、この父を見習うでないぞ」
いやでもあなた屋敷の中にいたんじゃ……息子のためにワープして援護防御したのか……。
鎌田(父)は息子を援護防御したらそのまま屋敷の中に戻り……ってほんとに何しに出てきたのかわからない。ほんとに援護防御しに来たのか。為朝も何かポカーンとしてます。
その後為義パパに会って「あなたが育てた次世代の武士は育ってます! 心配要らない!」とか死にそうなことを言ったので死ぬのかなと思ったら死んでしまいました。息子との別れは先週やって結構いい感じだったので今回の重ねての別れは蛇足だったかも……。
さて目の前で武者が死んで取り乱している悪左府さん。以前為義にもらったオウムを抱えてウロウロしています。なんでオウム。狼狽え過ぎでしょう……。普段毅然としているのに荒事になったら動揺しちゃう。萌えキャラ!
鎌田(父)が死んでしまったので為義パパは最早黙っておれぬと前線に出ようとしますが悪左府が止めます。
悪左府「どこへ行く! ここへいて私を守れ!」
これに為義応えて
「黙れい!戦を知らぬ者は、耳を塞いで時が過ぎるのを待っておれ!」
かっこいい! 急にかっこいい! これまで悪左府にはへいこらしてたのにこれです。この気迫に対して思わず声もなくうなずいちゃう悪左府萌えキャラ。
さて怒りのスーパーモードになった為義パパは「通清(鎌田父)が死んだぞ!」と喚きながら義朝に斬りかかります。が、弱い! 何かいなされてる! 為義の気迫に飲まれてうまく反撃はできないようですが……。というところに猛烈な為朝の援護射撃! これはたまりません。バタバタ寄せ手が倒れていくので、義朝は一時退却を命じます。
じゃあ退却して何をするのかというと、火攻めです。東国ではこんな戦法アタリマエね。鎌田(息子)が信西に許可を取りに行きました。
鎌田(息子)「火攻めにすると近所の寺まで焼けちゃうかも知れないんで」
信西「アホか! 帝が勝てば寺とかいくらでも立て直せるの!! 許可とかもらう暇あったらさっさと火を付けろよ!」
野蛮なアイデアはまた源氏から出たねと思ったら信西はもっととんでもなかった。為朝は火攻めを義朝の策と看破します。野蛮人、野蛮人を知る!
火をかけられては最早ここを守り固めても焼け出されるか焼け死ぬしかありません。白河北殿は即席攻城兵器を押し出した兎丸の侵入を許し、清盛らの乱入も許してしまいます。勝負ありです。
崇徳上皇らがどんどん逃げていきます。悪左府が転んで生足初公開なのを見て「そなたを信じた朕が愚かであった」とつぶやいて落ち延びる崇徳上皇。この瞬間、悪左府はすべての味方を失ってしまったわけですが。まだ抱えていたオウムがまたふるっています。
「ヨリナガサマノサイハココンワカンニヒルイナキモノ」(頼長様の才は古今和漢に比類なきもの)
以前はこのように阿諛追従する者がたくさんいたのに、だからオウムがこんな言葉を覚えているのに、今の悪左府にはもう味方がいないのでした……。
白河北殿に乱入した清盛は忠正おじさんを探しますが、伊藤(兄)にたしなめられます。
「今更見つけてどうするの。忠正おじさんはもう敗将なのよ?」
今おじさんを見つけたところで処断するしかないのです。それに伊藤(兄)だって弟を失っているんです。
伊藤(兄)「ここももう火に包まれます。出ましょう」
促されて屋敷から出た清盛。振り返ると目に映ったのは小さい頃白河法皇に面会した場所です。「お前にこの物の怪の血が流れておる!」と言われた場所です。それが焼け落ちる。死して尚生き続けた物の怪がついに死した瞬間だったのかも知れません。
ナレーション頼朝「保元元年七月十七日。かつて世を思うままに動かした白河院の御所が、武士たちによって落とされた。しかし、武士の世は、そう容易くは来なかった」

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大変よろしい回でした。やはり大河ドラマは群像劇ですよ。そして何と言っても悪左府ですね。悪左府素晴らしかった。戦争が始まる前のあの強気。「夜討ちとか信じらんねえ」「夜討ちなんかしたら上皇様の正当性が担保されなくなっちゃうよ」とか言っておきながら夜討ちされて唖然顔を見せてくれたと思ったらその後はもう荒事に慣れてないもんだから動揺しっぱなしなの。普段強気に出ている為義に一喝されてうなずくしかできないし、オウム抱えてるのとかもう動転し過ぎでしょうって感じで素敵すぎました。最終的にそのオウムにまで dis られる始末。これを最高と言わずして、何を最高と言うのか。
満足です! これだけ見られたらもうほんと満足。このあとめちゃくちゃになっても許せる! 今回はもう手放しで褒めちゃいます!