平清盛 8話「宋銭と内大臣」(2/26放送回)

平清盛の放送が始まる前、昨年の段階で、歴史考証担当の教授の方が「脚本の人が歴史知らねえええええええおかしな描写あっても私は止めてるからね! 私のせいじゃない!」的なことを公演で発言したらしく、私はこれをイエローシグナルと受け止め、平清盛にはあまり期待しないことにしていました。杞憂でしたが*1
その際にハードル低めに勝手に決めた平清盛の勝利条件が「藤原頼長の描写が素晴らしければ勝ち」というものでした。
この藤原頼長が初登場するのがこの8話でした。サブタイトルの内大臣とは藤原頼長のことです。
藤原頼長は藤原摂関家の忠実の次男なのですが、忠実は長男の忠通より頼長を気に入っていて、こちらをひいきし出世させようとし、今後色々ゴタゴタが起こることになります。なぜそうなったのかというと、わりと忠実は代々の藤原摂関家のメンバーに比べると運も実力も劣る面があり、白河法皇に嫌われていました。
例えば源為義の父親とされる源義親が九州で略奪したりなんかして大暴れした時に何も政治的判断が下せなかったなどの実績があります。ちなみにこの義親を討ったのが忠盛パパの父親正盛じいちゃんです。
その判断ミスの最たるものが娘の勲子の入内問題で、白河法皇に娘勲子を鳥羽天皇に入内させるように、とのお達しがあったんですがこれを断ります。同時期に白河法皇が長男忠通と璋子の婚姻を斡旋したのですが、たまちゃんの素行の噂が漏れ伝わっていたのでこれも忠実は断ります。
その後、璋子が入内したので「あっヤバい」となった忠実は、また鳥羽天皇の依頼もあって勲子を入内させるよう工作を始めるのですが、白河法皇が「何? 俺が頼んでもダメだったのに鳥羽ちゃんが頼めばお前 OK するわけ?」と怒り出して忠実の内覧*2が停止され、関白を事実上の罷免状態にされてしまいます。この後忠実は白河法皇崩御するまでずっと自宅謹慎となります。この自宅謹慎の間に生まれたのが頼長です。なお関白は長男の忠通が継ぎました。
白河法皇崩御以降、鳥羽院政が始まると忠実はふたたび内覧に復帰するのですが、こうなると忠通が面白くありません。関白は内覧と組み合わせてこそ意味があるので、忠実が内覧を握っている以上、忠通はお飾りの関白状態になってしまうわけです。これで次第に忠通は忠実の言うことを聞かなくなり、忠実は頼長の方が可愛くなる、といった感じです。また、忠実のすすめで跡継ぎがいない忠通の養子に頼長が迎えられるのですが、実子が生まれたのでキャンセル、という事件もありました。

さてこの藤原頼長、大変面白い人物です。
まずその1。非常に優秀な人物だったようで、強力な実行力をもって綱紀粛正と古い儀礼の復興を推し進めたのですが、まったく妥協をしない性格だったようで、それを恐れられ悪左府というあだ名を付けられています。左府は左大臣のことで、頼長が就いていた官職のことです。それで、悪というのは邪悪という意味ではなく、「ものすごい」+「ものすごいことへの恐れ」みたいな意味です。義朝の長男義平は「悪源太義平」と呼ばれていましたがそれと同じですね。南北朝時代の悪党の悪と同じ。戦国時代の「鬼」と同じ感じだと考えるとわかりやすいのかも。「鬼柴田(勝家)」「鬼小島弥太郎」いずれも別にひどい人って話ではないですよね。
その2。貴公子で優秀で、日本一の大学者と称されるほど博識なのに「俺和歌ダメだわ」と公言してて漢詩も苦手だったとか。人には誰しも欠陥がある!
その3。この人「台記」という日記を遺しています。わりと細かい話も載ってて「オウム貰ったけどこれ面白いね。人の言葉喋るのは舌が人間に似た形してるからかね」みたいなことも書かれていたりします。今回このネタ出てきますね。他にも「罪人が恩赦で釈放されたのが気に入らないので暗殺した。天に代わっておしおき」みたいなことも書いてあったりします。
しかし「台記」がすごいのは男色の話がモリモリ書かれていたことであって、家来や貴族、さらに武士とも関係していたようで、まあ何と言うんですかね、当時は男色は避けられていたものではありませんし、「自分の身体を使った政略結婚」みたいなところがあったのではないですかね。関係することで関係を深めるわけですね。

まあそんなわけでこの人のことを知ってる方はわりと当初から注目していて「ホモ左府」「ホモ左府」みたいに言われてたりしてその登場が待ち望まれていたのです。まあ「バイ左府」ではないかと私は思うわけですけど。

こんな面白い人物を、私は「若さの割にできる役者さん」と見ている山本耕史さんが演じるので、それはもう期待していたわけです。

というわけで、本編。

アバンタイトルは博多神崎荘とのことで、猥雑だけれども活気がある感じで商業地が描かれています。場所が博多だけあって交易品満載。そこへ家貞に案内されて登場した清盛は「貨幣経済」にびっくりしています。この頃の日本は商業というものがまだ存在していないようなものなので、宋銭での取り引きというものが大変珍しいものに見えたわけですね。

OP 直後は、貴重な家盛の逢引シーン。でも台詞の一言もなく微笑みあうだけという実につつましいもの。こんなに儚く描かれるとは、まあ成就しないでしょうね。兄が好き勝手に結婚してしまったのも影響するかも。

また博多。兎丸と盛国は「公式の貿易って大宰府でやるわけでしょ? 何でここでやってるのさ?」と疑問を口にします。するとここで家貞の種明かし。「実は忠盛パパが院宣を偽造して密貿易やってるんだよーん!」
兎丸「マジかよ堂々とやってる分海賊よりタチ悪ぃな!」
清盛「やったー王家を出し抜いてるパパマジかっけー!」
こういう主人公サイドが悪いことやってますが何か? みたいな大河はわりと好きです。「風林火山」だと上杉と武田とどっちが主人公側なのか分からないぐらい武田は悪かったですからね!
「主人公絶対正義!」みたいなのだと言い訳ばっかりしてるドラマになっちゃったりしてどうもね……。

宮中では悪左府さんが初登場! まだこの頃は内大臣なので本当は内府ですけどね。
鳥羽院「菊が見事に咲いて綺麗! だからみんな呼んだし不老長寿の仙薬と言われる菊酒も取り寄せたよ! みんな飲んでね」
悪左府「不老長寿とかくだらねー」
杯から優雅に扇で菊を除けてしまう悪左府さん。のっけからこれ。そもそも宴が気に入らない感じみたい。悪左府さん芸能苦手やからな……。そして不機嫌なままで自邸に戻ったら植え込みに一本だけ枝の刈り残しが!
悪左府「切っとけ。庭師には暇を出せ」
あまりにも過激な登場! 悪左府のキャラを強烈に印象付ける登場で、この番組が悪左府を重要なキャラクターであると認識していることがよーくわかりテンション上がりました!
そして頼長は父の忠実にこうも言います。
「近頃の都は乱れきっております。その上、それを正すべき院が若き妾に入れ込まれ、政に心が入らぬとはもってのほか。内大臣になった暁には、徹底して粛正したします」
過激なやつではありますが世の中を良くしようと思っている、という点では清盛と変わらないわけですね。立ち位置は全然違いますけどね。

一方、たまちゃんは菊が満開になった庭を見て寂しげな顔を見せます。ここには以前はたまちゃんが好きな水仙鳥羽院があたり一面に植えていたのですが、もはや一本も水仙はないのです。鳥羽院の心はたまちゃんから移ってしまいました。

続けて崇徳帝のシーン。崇徳帝が、義清に対し、「瀬をはやみ〜」の歌を鳥羽院の前で披露したことをなぜか! と問い詰めています。義清は言われた通りにしただけなんですが、崇徳帝はマジギレ!
「許さぬ! 鳥羽の院の前で詠むなど、許さぬ……!」
怒ってたかと思ったら「義清、近う……近う……」 と言い出して自分の境遇を切々と語り出し哀切を醸し出したと思ったらワープして義清に接近し「信じられるのはそなただけじゃ……。そばにおってくれ……。朕をひとりにせんでくれ……」と義清に迫ります。
すっかりほだされた義清は「義清はきっと帝をお守りいたしまする」と返事せざるを得ない……と言うか、距離が近過ぎ。みんな悪左府登場でそっちを警戒してたらこっちという虚誘掩殺の計ですよ。恐るべしですね。帝が飛び出したんで空っぽの玉座とかをカメラが映してたりして、帝のお悲しみや幾許ぞ! みたいな感じでしてね。

朝廷シーンはここまで。
京の街にカメラが移ると、密輸入品を清盛一派が売りさばいています。兎丸が「こういうのを偉いやつらが独占するのは面白くないだろ!」とか言ってて、さすがに清盛と盛国が止めようとするのですが、そこに現れたのが高階サダヲ。
「これ売ってるの! すげえ! 優れた品を民が直に見て触れることで、この国の品々もよりよき物になっていく!」といつもの宋好き病発作です。そして兎丸と意気投合しちゃって、清盛もなんか乗せられて
「よしわかった!これらの品々、見せるなり売るなり好きにするがよい! わしが責任を取る!」
とか言い出してえーあんた責任なんか取れないでしょ!!

というところで今度は責任を取る家盛のお話。
家盛に縁談が来ていて、もちろんこれは清盛と違って政略結婚。忠正叔父さんはスーパーノリノリで「これでもう家盛が跡取りだよねー」みたいな感じ。こんなの家盛が断れるわけないじゃないですか!

と思ったら義朝のターン。音声は義朝が為義に書いた手紙でして、結構立派というか、恵まれたというか、まっとうな生活してますよ、というアピールなんですね。「源氏の祖先の威光でよくしてもらってますよー」みたいな。でも映像は全然違いますね。修羅の国で修羅と切り結び野獣を捕らえてとりあえず焼いて喰う! みたいな感じで「源氏の棟梁の御曹司? 何それ喰えるの?」という世界に生きてます。やばい。世紀末東国!
為義さんは源氏の威光を地に落としたランキング上位の自覚ありますからこんなのは嘘で心配かけさせまいという嘘だと見抜いているわけですね。孝行息子! 
そこで源氏パートは終わらず、以前義朝にガツーンと言われて惚れちゃうという少女マンガの手本みたいなことしていた由良姫が源氏館を訪ねて来たのでした。由良姫との出会いは少女漫画だったけど今の義朝はバイオレンス漫画の世界におります……。そんなツンデレで、大丈夫か? という感じ。

さて、京の街で密輸大放出! 大宋セールやってる清盛たち。兎丸が「ここで買うたことは内密にな!」とか最早何の意味もないようなことを言っていますが……。
これが何者かに買われ
それを為義さんが手に入れて
オウムとか珍しい藤原摂関家に取り入るための手土産にぴったり!
為義「献上しに来ました!」
オウム「ここで買うたことは内密にな!」
悪左府「おいなんだそれ」
というわけで見事に伏線回収! 台記のネタも回収! 早速清盛が詮議のため呼ばれます! 為義さんこういう方面に便利キャラね!
悪左府「ハイこれだけ輸入品のリストある。いつどこで何が取り引きされたのかバッチリ分かる。お前がどこどこに行ってたのはいつ? おかしいねリストにこのオウムがないねどうやって手に入れたんお前? 院宣偽造したの誰だよ?」
完全チェックメイト状態で反論のしようがありません! どうする清盛!
「よくもまあ、細かいことをチマチマチマチマと…調べてきたものでござりますな!」
逆ギレだああああああ!
「誰がどこで誰と取引したって勝手だろ! お前ら国の役人が王家のためだけにいい品買い付けて他には流さないから全然面白くない! そんな仕組みに何の意味があるんだよ!! このこの宋銭が国を豊かするんだよ! 宋は栄えてるからそうなんだよ! 真似しなきゃ! この国の仕組み変えようぜ宋国を手本にしようぜそうだお前王家に掛け合えよやったぜナイスアイデアだな! お前もそう思うだろ?!」
ここ、天地人とかご何とかって大河ドラマだと「ははーっ! 御見それしましたーっ!」ってなっちゃうシーンなんですけど。
悪左府は「なんとまあ……」と震え声。もちろんビビってるんじゃないです。嘲笑してるんです。笑いが止まらないから声も震えちゃうんです。
悪左府「気の遠くなるほど愚かな奴!」
ヒャー!
悪左府「どんだけバカなんだよお前。商売してるところ見ただけで宋国のこと知った気になっちゃってんの?! もう帰れよ。お前がどう考えてるのか知りたかっただけだから。これだけの証拠を突きつけられといて、全然気にしないで逆ギレして意味のわかんないこと言って国の仕組みを変えろか言い出す。私はこれからお前のようなやつら粛清するからな!」
いいですね。
一蹴された清盛、兎丸に「どうして言い返さなかったんだよ」と問われ
清盛「言い返さなかったんじゃなくて言い返せなかったの。言えば言うだけ俺がバカだってわかる! 何かを変えたいって気持ちだけじゃダメなんだな。ああいうのとやり合うには全然力が足りない!」
成長したかなと思えばまた無頼モードに戻る清盛でしたが、珍しくしっかりと分かる成長シーンでしたね。兎丸がツンデレしてた気もしますが、そういうのは求められていないので由良姫に任せておけ。

一方清盛を一蹴した悪左府のところには高階サダヲが同席していたのですが、彼はこう言います。
院宣偽造っていっても、鳥羽院は平家の密輸に一枚噛んでるようなもんだからこれ訴訟しても通んないよね? あんたほど頭がよければその辺わかってるよね?」
ま、この人平氏に協力的なので、牽制なのですかね。平氏叩いても碌なことねーぞーって。
悪左府は返事しません。そりゃ「いずれは院も!」とか堂々と言えるわけもないし。だから平氏にもむかつきは残るし。もちろん粛清したいし。そしてサダヲもバカじゃねーなと認識したりしてる感じ。

国の仕掛けの根幹のところは藤原摂関家が握っているので、正しい手続きで貿易をすると儲けの多くは藤原摂関家に入るんですね。一方、平氏の密貿易は平氏が院に取り入ってるので、間接的に院の懐に入ると。だから院からしたら「どんどんやってくれたまえ!」状態なわけです。ただ不正は不正でして「国のトップが不正に加担してどうすんだよボケ!」という悪左府には理がある、そんな感じですね。

で、最後は清盛に子供ができた! っていって終わりかと思いきや家盛は想い人と逢引していました、遠くから見つめあうだけの、無言で。というシーンがまだありました。何もしゃべらないのが余韻があっていいですね。

今後への伏線をバシバシ張りつつも面白いという大変よろしい回でした。悪左府登場にふさわしい素晴らしい回だったと思います。

*1:まあ今回の脚本の人って私が一番気に入ってる朝の連続テレビ小説ちりとてちん」の脚本の方ですから

*2:内覧についてはいずれ説明しますが、天皇への公文書を確認する資格と覚えてください。摂政・関白には必須と言ってもいい資格です