世界樹の何か その4

21階のネタバレがあります。
21階へ降り立ったパーティを迎えたのは、彼らが目にしたこともない光景だった。

や「なんだ……ここは」

これまでも一定の階を降りるごとに周囲の様子は一変していたが、今回の変わりようはこれまでとは明らかに違う。簡単に言うと、そこは森ではなかったのだ。

アル「壁が石のような、でもこれは石ではないですね」
ス「ここは透明な板が嵌まっているな。この大きな窓から落ちることはなさそうだ」

ストライダーが手を伸ばし、叩く仕草を見せると、確かにコンコン、と何かがある音がする。

セ「建物、なんでしょうね」
アテ「こんな建物は見たことも聞いたこともないですけどね……! 何が出てくるかわかりません。みんな気を付けて」

慎重に、慎重にとパーティが進もうとした先に、行く手を遮るように二つの影があった。パーティにとっては見覚えのある姿だったが、これまでと決定的に違うのは、とてつもない殺気を放っていることだ。
二つの影の内、背の高い方が顔を伏せたまま、しかし良く通る声で話し掛けてきた。

レン「君たちは、ついにここまで来てしまったね。でも、ここは人の来てはいけない領域なんだ」

その声に、やよいが飛び出した。

や「漣!」
レ「弥……生?」

顔を上げたレンは、信じられない物を見たかのように、大きく目を見開いて、飛び出した少女を見たが、すぐに顔をそむけた。

や「エトリアの迷宮に凄腕の女剣士がいると聞いたら……やっぱり!」
レ「……なぜ、ここにいる」

ようやく、わけがわからずにあっけに取られていた他のメンバーも我に返った。

セ「やよいさんは剣の先輩を探してエトリアまで来たんです!」
アテ「それがレン、あなただった、ということですね。私たちも、知らなかったのですが」

レンはうなだれていた。二人の言葉も、聞こえているのかどうか。

レ「参ったな……君たちは第4階層までずっと同じメンバーだったじゃないか。あの白髪はどうしたんだ……。何でよりによって……弥生……」

レンは俯いたまま、額に当てた手で髪をくしゃくしゃといじる。

や「一緒に帰ろう、漣。みんな心配している」
レ「それは……できない」

これまでやよいと目を合わせようとしなかったレンは、視線を上げて、ようやくやよいの目を見据えた。やよいは首筋に氷を当てられたような冷たさを感じる。まさに、射るような視線。

レ「君達はこの迷宮の謎を解き明かそうとしている……この迷宮は解き明かされてはいけないんだよ。迷宮で成り立つエトリアの街のために。そして、彷徨える私たちを救ってくれたあの人のために」

レンは刀の柄に手をかける。

レ「知る者は排除されなければならない」

レンは鯉口を切ったが、やよいはさらに一歩を踏み出した。

や「漣、どうして……。そうか、その女か。その女は北方の呪われた民!」

ツスクルは「呪われた民」のフレーズにびくりと身を震わせた。密かに続けていた呪言の詠唱が途切れたようだ。

や「呪われた民は人を操ると聞いた! 貴様が漣をたぶらかして……」
レ「黙れ! ツスクルは呪われてなんかいない!」

雷光の速さでレンの刀が閃くと、喉笛から大量の鮮血を吹き出し、やよいは沈黙した。

アテ「レン! 貴方と言えど……
ス「貴様! よくもやよいを!」

こうして、迷宮最強の冒険者パーティ同士の戦いの火蓋は切って落とされた。