のぼうの城(史実に関するネタバレあり+この映画固有のネタバレ少しあり)

素晴らしい! 何がって戦争シーンですよ。
のぼうの城」には原作の小説があり、これがヒットしました。元々劇の脚本として考えたお話と聞いたことがありますので、今回の映画化はまさに収まるべきところに収まったものと言えましょう。
この話は豊臣秀吉の天下統一の総仕上げ状態であった後北条氏攻めの一部、忍城攻防戦を描いたものです。攻めるは関ヶ原の戦いで西軍のメイン*1を張ることになる石田三成。守るは当時は後北条氏組下成田氏の当主成田氏長……は後北条氏主城の小田原に詰めていたのでその叔父成田泰季……が病で倒れたのでその息子が代理、成田長親*2
長親は成田氏嫡流ではないので気楽な感じですし無能な感じで領民から「どうしようもねえなああの人」という感じで好かれており、「木偶の棒様」を婉曲して「のぼう様」と呼ばれていました。大体の成田家家臣からもそういう認識でしたが、留守居仲間の長親の幼馴染でもある正木丹波守は長親には潜在的な将器があるのではないかと思っていました。
忍城将兵500に迫る石田三成率いる天下兵*32万! 忍城は今は人工的な構造物は跡形もないですが城の堀であったと思われる行田市の池というより湖みたいなところは水上公園として残っているように平城としてはかなり防御力が高い感じの城ではありますが、まあ到底勝負になる兵数の差ではありません。

成田氏というのは古くから武蔵国(現在の東京都+埼玉県+神奈川県北部)北部に割拠する豪族で、関東管領山内上杉についたり扇谷上杉についたり古河公方足利についたり、この直前頃はみんな大好き上杉謙信についたり後北条氏についたり……という感じの氏族で、もちろん機を見るに敏です。なので実は豊臣軍が攻めてくる前から当主氏長は寝返りを約束していました。ですがこの豊臣軍、秀吉は三成に箔をつけてやろうと考えていたし、三成も武功を挙げたかった。戦う前から相手が降伏するのではそれは三成の武功ではなく豊臣の兵数すげーって話になってしまいます。

そこで三成はこのお話では嫌な奴役回りにされてしまっている長束正家を軍使に立てます。バッチリ交渉決裂! さあ戦いだ! どう戦う! 忍城! 長親! というお話です。
大変良い映画でした。何が良かったって言うと原作はすでに読んでいて話が面白かったんで私はそこはもう気にしていなくて、何を期待していたのかと言ったら戦争の描写です。
大河ドラマなんかでも予算の問題だったりで結構戦場で兵数が足りなかったり*4考証が甘くて謎バトル*5やってたりするんですね。
で、それに一石を投じたのがアニメ映画なんですけど『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』なのです。これは考証が異様なほどしっかりしていて当時の城攻めとはどんなものだったのかバッチリ描かれています。

これを実写映画にしたのが草磲剛主演の『BALLAD 名もなき恋のうた』という映画でして、これも CG を使いながら大変良くできていました。私は『のぼうの城』にそういうのを期待していたんですね。

で、そこはバッチリ。

やっぱりきちんと戦国戦国した格好の兵が大量に動員されているだけでかなりの満足感がありますね。で、城の周囲の田んぼは兵士の足を取るので堀のように機能する、みたいなリアルっぽい描写がきちんと入りつつ、監督が樋口信嗣さんですのでところどころ過剰な特撮パワーも入ると。で、戦国無双みたいな活躍する人もいると。
騎馬鉄砲とかロング火縄銃による長距離射撃みたいな「少なくともそこにそれはないだろ」的なものもしばしば登場するのですが、わかってて変な物出してるんですよーというサインがきちんと伝わってくるので気にならないというかむしろいいですね。

残念ながらストーリーと記録の都合でまともバトルはこれだけになってしまうのですが、そこだけで私は充分満足しました。

その後は記録通り水攻めなのですが、水の演出はちょっとくどかったかなあ。ま、私はその前の戦争シーンで満足していたのでそこまで気にはなりませんでしたけど。

役者につきましてですけど、のぼう様が野村萬斎。うーん、ちょっと才能ありそう過ぎじゃない? 無能に見える人なんでしょう? と思ったんですが、まあさすが野村萬斎さんですわ。見事に演じていて違和感なかったですね……。あと『のぼうの城』公開タイアップ的な感じで以前野村萬斎さんが主役をやった『陰陽師』がテレビで流れてましたけど、これ10年前の映画なのに全然野村萬斎さんの雰囲気が変わってない……何者なんですか……。
石田三成は『天地人』では素材を活かしたアホ役小早川秀秋*6で素晴らしい演技だった上地さん。
石田三成といえば一般的なイメージは切れ者だが人の気持ちがわからないみたいな感じのイメージで、上地さんとはそぐわないかなみたいな感じなんですが、でも忍城攻めの頃の三成って記録上ではかなり右往左往しておりバカかどうかはまあ留保しても頼りない感じは大変ありますのでこれでアリなのです。ついでに言うと市村正親さんの秀吉もかなりマッチしてました。テルマエ・ロマエと言い市村さんは君主顔なのでしょうか。

正木丹波守(佐藤浩市)、柴崎和泉守(山口智充)、酒巻靱負(成宮寛貴)、この三人は記録には残っていて忍城攻防戦に参加していたのは間違いないのですが、名前以上の情報はなく、このお話のオリジナルキャラクターみたいなものです。小説ではそれなりに分別もあり武勇もある正木、武勇ばっかりで分別はいまいちな柴崎、酒巻は初陣で頭でっかちで奇策ばっかり弄するけど危なっかしいながらも目立った手落ちはなく経験ない割に戦巧者じゃん、みたいなキャラクターでした。それぞれかなりいい感じに見えましたね。正木の安定感はさすが佐藤浩市だわ超安心して見ていられるという感じでしたし、柴崎のものすごい張飛感もそれっぽい。柴崎が戦うシーンだけ戦国無双みたいになっていて笑いました。で、酒巻もすごく生意気だけどできる小僧って感じで良い。成宮さんは映画逆転裁判できちんと認識するようになったのですが、あれもなかなかいい感じでしたね。オウムが証人になるシーン、成歩堂の腕にオウムが乗るのは予定になかったハプニングなんだそうですけど、そこでびっくりして固まっちゃったりするのでなく元々そういう予定でしたよみたいに演じるのでそのまま OK 出てフィルムに入っちゃってるんですけど、すごく自然でしたし。ただレイトン教授 vs 逆転裁判の声をあててるのは良くない。実写成歩堂くんは成宮さんで全然問題ないけどアニメ絵の成歩堂くんは成宮さんの声でしゃべったらなんかおかしい。

とまあ、原作リスペクトであり、役者の演技も原作の雰囲気を損なわず、戦争の表現はリアルっぽさをベースにしながらもやるところは派手にやる! という感じで、大変戦国マニア得、原作ファン得な映画でありました。原作読んだことない方にもお勧めできますね。

*1:総大将は毛利輝元なので変な表現に

*2:当主氏長の従兄弟

*3:豊臣軍

*4:風林火山』の過疎化した川中島

*5:角川映画天と地と』の謎の部隊諏訪神軍

*6:実際の小早川秀秋がアホかといったら大いに疑問ですが、巷間のイメージはアホです