三国志ネタ本にもやはり良し悪しがありますね

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三国志人物外伝 亡国は男の意地の見せ所 (平凡社新書)

三国志人物外伝 亡国は男の意地の見せ所 (平凡社新書)

とか色々三国志のネタ本を購入したのですが読んでみて持った感想が
「まずい、こういう三国志のネタ本を買って読んでもほとんどが知っているネタだ」
といったところで、私の三国癖はもう重症過ぎてどうにもなりません。
あ、この本自体はそれなりに良いと思います。まあまあ読みやすいですし、有名な三国志マイナーネタ(矛盾)は大体カバーしていますので、飲み会とかで三国志知識を披露して「キャー素敵」とか言われたいとかそういう方におすすめ。多分言われませんけど!
で、その中で見つけたこの本がひどくて。前書きで

またここでお断りしておかねばならないのは、世間一般で伝えられてきた人物像と私の評価が、一部においてはっきり相違している点だろう。これは広く知られるイメージがすべて<三国志演義>に由来するのが原因と言える。
私が本書で述べようとしているのは三国時代の歴史――三国史であって、物語の三国志ではないことをご承知いただきたい。

と書いていたので、この本は史実に基づいて三国志の戦役について書いていくのだろうなあと思ったのです。
なのに、シ水関の戦いで関羽華雄を斬ったとか書いてあるんです。
あと呂布に対して劉備関羽張飛が一度に掛かって追い返したとか書いてあるんです。
これ明らかに演義なので、「〜というのが物語の三国志だが」とかフォローが入って、史実の三国志の話になっていくのかなと思ったら、ならないんですよ。勘弁して!
じゃあこの本は前書きがフェイクなだけで実は全編三国志演義にのっとって書かれているのかなと好意的に解釈しようと思ったのですが、演義には出てこない戦い*1などが載っていたり。
史実では袁紹に殺された麹義演義のように趙雲に突き殺されていたり。もう何がなんだか。これが史実と虚構の区別が付かなくなった何とか脳ですよ。ひどいですね。
まあでも何とか脳なだけなら可哀想な人で済むんですけど、それだけじゃないんです。
何と言うのかこの方は叩きたがり屋なのか知りませんけど、戦役を紹介した後に「○○はこうすれば良かったのに」と言うまでは別にいいんですけど、「○○はこうすれば良かったのにこうしなかったのは馬鹿」ぐらいの事まで言うんですね。それは許容範囲外です。
しかも、それは結果を知ってるからそういうことが言えるのであって、その時その場じゃその選択肢はありえません、というものだったり、あるいは後知恵の癖に「こうすれば良かった」が的外れだったりするので恐れ入ります。
例えば赤壁の戦いのところでは、曹操は一旦江陵に引いて持久戦を挑むか、柴桑を狙って地上戦を挑むべきだった、って言ってるんですけど、それはねええええええええええええええええええええですよ。
持久戦を挑むなんて、何のために曹操は劇的な電撃戦を仕掛けて江陵を取ったのか、って話になってきます。持久の構えを取ったところで大軍を擁したままでは補給がままならないですし、孫権、劉キ、劉備劉璋から囲まれる状態で兵力を減らすわけにはいきません。そもそも曹操に必要だったのは江陵だけではなくて江夏の銅山だった! という説もありまして、それが正しいとするなら江夏には劉キ・劉備が居ますからにらみ合っていちゃそれが手に入りません。降伏した荊州の兵だって劉キ・劉備と結びついていつ何をするかわかりませんし、そうでなくとも劉備はゲリラ戦大好きですから、曹操がじっとしていたら変なことされまくりで兵力の優位すら覆されるような状況になりかねません。
そういう嫌な状況にならないための電撃戦だったのですから江陵取ってから持久策などありえないのです。
では柴桑目指して陸戦……あのう、練度の低い北方水軍*2、あるいは士気の低い荊州水軍を率いて、あの広い長江をどうやって水戦を避けて渡河するというのですか。どこかで周瑜の水軍を叩かないと柴桑まで辿り着けませんよ! 黄河と比較してさえ桁が違うんですから、長江は。陸戦だけで柴桑に辿り着けなんて無理過ぎます。地図をちゃんと見ているんでしょうか。
というわけで中々凄まじい本でした。まったくおすすめしません。しかし劉備の名前が出るたびに「劉備YOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE」って叩いているのは何か恨みでもあるのかと。劉備曹操陸遜以外には負けたことないんですけどね*3

*1:孫策 vs 劉勲の西塞山の戦い

*2:何と霧の中を迷って目的地とは全然違う方向へ進んでしまうという練度の低さ!

*3:呂布の時は裏切りによる完全な奇襲だったので勘弁してやってください