新・平家物語読了

いやー長かったです全16巻。でも読んでる時はすらすら読めるのですよ。本当の名文というのははっとするような表現がバリバリに入っているよりこういうすらすら読める文章ですよ。多分、そういう文の方が書くのは難しいです。
平家物語といえば平知盛の「見るべきほどのものは見つ」や、武蔵坊弁慶の立ち往生などの名台詞、名場面などがありますが、何の意図あってかこの2つのシーンはほとんど省かれたも同然でした。吉川先生は三国志の冒頭も劉備が茶を買いに行き黄巾賊に出会い、張飛と知り合ってその主の姫を救うという独自エピソードを追加しオリジナリティを出していたのでそういう意図でしょうか。
0083の今西監督の「ニュータイプのキャラを出すことによって、ガンダム風の味付けをすることはしたくない」と言ってニュータイプを出さなかったように、平家物語として有名なシーンを出すことによって平家物語らしさを出したくなかったのでしょうか。いや、三国志は『三国志』として出版されたのに、これは平家物語ではなく『新・平家物語』として出版されているのですから、これまでの平家物語と異なったものを作ろうとしたのかも知れません。この『新・平家物語』は元ネタとして平家物語だけではなく吾妻鏡やさまざまな資料を併せて用いているところからもそれは感じられます。
そのオリジナリティの一つが阿部麻鳥という崇徳上皇の従者から町医師となった登場人物です。崇徳上皇の従者だったことから、保元の乱を目のあたりにし、さらに平治の乱、源平の合戦、義経と知己だったことから「狡兎死して走狗烹らる」を実感させられることになります。庶民でありながら崇徳上皇平清盛後白河法皇源義経らと関わった彼の視線が加わることにより無常感が強調されていたように思います。
というわけでこの時代が好きな方、無常を味わいたい方、そういう方には今更過ぎるとは思いますがおすすめです。ただしあまり無常感に囚われて出家しないように! 出家するのでしたら源平合戦がおすすめ。源平合戦は復刻版が出ています(http://www.gamecity.ne.jp/campaign/25th/pack2.htm)。
HARAKIRI の恥システムか源平合戦の無常システムか*1と言われた名作なのです、多分。

新・平家物語(一) (吉川英治歴史時代文庫)

新・平家物語(一) (吉川英治歴史時代文庫)

*1:敵を討ち取ると敵の優雅という能力値に応じて無常値が上昇、これが一定に達すると出家してしまう。例えば平敦盛は優雅値が非常に高い